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有機EL市場を制するカギはIP戦略にあり

» 2004年06月04日 15時39分 公開
[豊崎禎久,アイサプライ・ジャパン]

 アイサプライ・ジャパンは、6月3日、同社の最新レポート「OLED Intellectual Property Special Studyから、有機EL業界における知的財産分野(IP)の勢力動向および特許の重要性について発表した。

有機EL、知財分野の勢力動向

 有機EL(OLED)ディスプレイ産業の成立に際して、知的財産権(IP)が決定的な役割を担ってきていたが、さらに大きな変化が予兆されている。

 これは、有機EL業界において中核的な開発者であり、かつ特許の支配的保有者である、コダック社の初期の特許が時効を迎えつつあることがその要因となる。

 有機ELに関する国際特許の権利取得者上位20のうち、日本の企業が過半数を占めており、米国および欧州がこれに続いている。韓国と台湾の企業は、保有する特許数は少ないものの、製造能力やノウハウについては既に重要な役割を果たしてきている。

図表:有機EL特許登録件数の国別割合

日本 米国 EPO(欧州) 中国 台湾 韓国
70.1% 56.9% 28.9% 12.1% 7.5% 3.7%

 日本は台湾の10倍、韓国の20倍もの特許を登録しており、この差は、日本の企業に対しては強力な保護となっていると同時に、日本以外の企業にとっては日本における販売活動の大きな障壁となっていることを示している。そのため、基本的な有機EL特許が一般分野で使用されるのに応じて、世界規模での協調と競合関係がおこりつつあり、企業にとってIP戦略は死命を制する選択肢となる。

上昇機運の有機EL市場

 有機ELは、現在開発されているフラット・パネル・ディスプレイ(FPD)の中で、最も有望な次世代技術と目されている。アイサプライ社の予測では、2003年においては世界中で1730万個であった販売個数は、2004年には3620万個に達する。さらに2004年から2010年へは10倍以上の成長が見込まれ、3億6600万個に達すると見込まれている。

数量ベースで見た有機ELの世界売り上げ予測(クリックで拡大します)

 過去数年間の初期の有機ELは、携帯電話、カーステレオあるいは小型民生機器の表示素子として、小型グラフィック液晶と競合関係にあった。しかし、フルカラー及びアクティブマトリックス技術の出現により、有機ELは、デジタル・スチール・カメラ(DSC)への採用に始まり、現在は大型液晶が支配的な地位を占めている分野へさまざまな変化を与えることになるものとアイサプライは予測している。

 2003年における有機ELの総販売高の98%を、コダック社のライセンスである日本のパイオニア、韓国のSamsung SDI社及び台湾のRiTdisplay社が占めている。その他の多くの企業が有機ELビジネスへの参入を考慮しており、コダック自体が三洋電機との合弁会社であるSK Displayで生産を始めた。アイサプライは、このような変化に即応して、明確に焦点を絞ったIP戦略が全ての有機EL企業にとって必要になると確信している。

特許の重要性

 アイサプライの技術・戦略リサーチ担当ディレクターであるDr. Kimberly Allen氏は、いまだ開発途上にある有機EL市場と技術にとって、その製品に関する知財の開発と保護は、競争に勝つための決定的な課題であるとしている。特許を保持する者は、その発明に基づく製品やサービスに対して通常価格よりも高い価格付けが可能であるために、その発明を統御でき、結果として、開発費を回収し、かつ利益を挙げることさえ可能となる。今日までのフラット・パネル市場の発展は、特許の有用性を余すところなく実証してきた。

 同氏は、「有機ELに関心を持つ企業が、基本的な特許への繋がりを持つことが如何に重要であるかを認識するためには、液晶やプラズマ・ディスプレー・パネル(PDP)業界を見れば一目瞭然であろう」と述べ、さらに、「日本は特許については強力なパワーを保持している。台湾と韓国の有機EL企業はライセンスとパートナーシップによってポートフォリオ構築を強化する一方、彼ら独自の発明の特許申請を推進しようとしている」と述べている。

 1980年以降、世界中で6562件の有機ELに関する特許が確立したが、1990年代の後半から特許取得活動は急激な伸張を見せており、減衰する兆しはまったく無い。


 この分析は、アイサプライの最新レポート「OLED Intellectual Property Special Study」および、同社がデータベースでサービス提供している「Emerging Displays Technologies」からサマリーして発表している。同レポートでは、「有機EL特許申請件数でどの企業がリードするのか?」「有機EL特許でどの企業が最強の立場を取っているのか?」「有機EL特許はどのような地域分布となっているのか?」といった疑問に対する答えや、さらなる情報を提供する。

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