小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
“大は小を兼ねない”生成AI 注目集める「小規模言語モデル」(SLM) そのメリットとは?(3/3 ページ)
新たな医療技術の研究を行う機関であるハンガリーのThe Medical Futurist Instituteで研究員を務める、医学博士のプラナフシン・ドゥンヌーさんは、SLMを利用することで、より患者固有の症状や状況に合わせた回答を行ってくれる医療チャットbotの開発が可能になると予測している。
また回答の信頼性が高まることで、AIツールに対する信頼も高まり、医師や患者の間での普及が進む可能性も指摘。SLMを利用したツールが実際に医療現場に導入されるようになるのは「時間の問題」だとしている。
医療業界の他に、金融業界もSLMの活用が期待されている領域の一つだ。医療と同様、やりとりされる情報に対して高い専門性と機密性、個別性が求められる金融サービスでは、カスタマイズしたSLMをローカル環境で実行できるシステムにメリットが生まれると考えられる。
実際に、金融業界に特化したSLMが既に発表されている。金融業界向けAIソリューションを開発している米Allganizeが開発した「Allganize Finance 13B」は、米国や日本、韓国の金融法規に関する包括的なデータセットでトレーニングされており、それにより「金融規制の複雑な状況を把握し、的確で正確な回答を提供する」ことが可能としている。
また同社は「金融法に関する深い理解が、市場動向や規制の分析に役立ち、投資戦略や市場調査において競争力を発揮する」としている。
他にもMicrosoftは、Phi-3を紹介したブログ記事の中で、ローカル環境でSLMを利用するユースケースの事例をいくつか挙げている。カーコンピュータやWi-Fiを搭載していないPC、交通システム、工場内のスマートセンサー、リモートカメラ、各種の監視デバイスなどにSLMを搭載するというものだ。
その場合、これらのデバイスはクラウドとやりとりすることなく、言語モデルを活用した高度な情報解析・回答生成が可能に。結果、情報の機密性が守られると同時に「異常を検知したら瞬時にアラートをあげる」といったリアルタイム対応が可能になるわけだ。
こうしたさまざまな事例が示しているように、今後は多くの業界において、各社(大手IT企業ではない一般の企業)が独自のSLMアプリケーションを構築するようになるだろうと予想されている。またLLMとSLMの長所短所を理解した上で、両方を適切なタスクに配置して、システム全体として目的を達成するという手法も検討されるようになっている。
「全ての企業はAIを自社開発するようになる」
しかし本当にユーザー企業が、言語モデルという厄介な技術への対応に乗り出すのだろうか? この点について前述のクレマン・ドランジュCEOは、同じLinkedInの記事の中で、もう一つこんな予想を披露している。
「全ての企業は最終的に、(オープンソースAIをベースに)AIを自社開発することを選ぶようになり、サードパーティーのAPIにアウトソースすることはなくなるだろう。そして、現在のコード・リポジトリと同じくらい多くのモデルが存在するようになるだろう。AIは技術を構築するための基盤技術であり、競合他社と同じコードベースをアウトソースしたり、使用したりしないのと同じように、AI開発をアウトソースしたり、競合他社と同じモデルを使用したりすることも望まないはずだ」(クレマン・ドランジュCEO)
なかなか踏み込んだ予想といえるが「全ての企業」がAIの自社開発に戻っていかなかったとしても、ユースケースに応じてLLMではなくSLMを選択する企業は今後増えていくだろう。
どのユースケースにどのくらいの競争優位性を見出して、それを支えるAIシステムの自社開発に踏み切るか。その際にLLMとSLMのどちらを選び、さらに各社から提供される無数の関連製品(学習済みの言語モデル)のどれをベースとするか。ユーザー企業にとっては、なかなか悩ましい状況が到来しそうだ。
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小林啓倫のエマージング・テクノロジー論考
生成AIやメタバース、新たなサイバー攻撃など、テクノロジーの進化が止まらない。少しずつ生活の中に浸透し、その恩恵を預かれることもある一方、思いもよらない問題を生み出すこともある。このコーナーでは、さまざまな分野の新興技術「エマージング・テクノロジー」について、小林啓倫氏が解説する。
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