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ギョーカイへのなじみ具合を見分ける方法(1/2 ページ)

» 2004年05月10日 06時52分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 新社会人にとって、入社から約1カ月経ったあたりにやってくるゴールデンウィークは、いいものか悪いものか微妙なところである。社会人の先輩の目からみれば、せっかくなじみ始めたところで休みを入れるより、半年ぐらいがむしゃらに突っ走ってもらったほうがイキオイが付いていいんじゃないか、と思うのではないだろうか。下手に考える時間があって、「オレの人生これで良かったのか」などと思い始めると、大抵ロクなことにはならないものである。

 筆者が社会人になって飛び込んだ業界はテレビ関係であったため、一般的な常識や用語が全く違って、大変にとまどったものだ。最初はテレビ業界独特の、言葉をひっくり返して喋るのが気恥ずかしくて、なかなか言えなかったのを覚えている。その代わり、いつ会っても挨拶が「おはようございます」で済むのは、時間を気にしなくていいので、大変楽だった。

 一方で出版業界の挨拶は一般社会と同じなので、いつもとまどう。10時半ぐらいに会ったら「おはようございます」なのか「こんにちは」なのか、17時ぐらいは「こんにちは」なのか「こんばんは」なのか、そういう微妙な判断が未だによくできないのは、そのせいかもしれない。

「業界語」のイントネーション

 IT業界の新人というのは、いったいどれぐらいで一人前になるものなのだろうか。先輩からすれば、早く業界になじんで「使える」ようになって欲しいと思うことだろう。人や職種にもよるだろうが、そいつがなじんだかどうかを見分ける方法があるので、お教えしよう。

 それには、その業界だけで頻繁に使われる外来語を言わせてみればいい。たとえば「サーバー(*1)」とか「ワーム」とかだ。あるいは「ベクター」とか「アップル」でもいい。

 これらの単語は、本来頭にアクセントがある。ここで便宜的に太字になっている部分を強く、あるいは音程を高く発音すると決めようか。すると“サーバー”は「さあばあ」、ワームは「あむ」といった具合になる。

 だが業界内ではほとんど、サーバーは「さあばあ」であり、ワームは「わあむ」と発音しているはずである。こうして書くと、アクセントの位置が逆転しているように見えるが、これは相対的にそう見えるだけだ。正確には第一音節にあったアクセントを、逆に低くしているのである。

 「ベクター」とか「アップル」とか、どっちにアクセントを置いた方がギョーカイっぽいか、試しに言ってみて欲しい。圧倒的に第一音節のアクセントを取って逆に下げた方がギョーカイっぽいのではないだろうか。

 もし新人がすでにこんな発音の仕方をしているのであれば、字面だけでなく、相当その単語を聞いたりしゃべったりしているしているということであり、だいぶ業界人らしくなってきたということにつながるだろう。

平坦化するイントネーション

 専門家の間で外来語のイントネーションが変化する現象は、「専門家アクセント」として、東京外語大教授である井上史雄氏 著「日本語ウォッチング」(岩波新書)の中で報告されたのが最初だろうか。

 この本の初版は1998年だが、井上氏は1970年代から同様の現象に気づき、調査を続けた結果、その言葉をよく使う人たちのみに起こりうるイントネーションの変化であることを指摘している。もしかしたらもっと古い著作もあるかもしれない。

 井上氏は同書の中でこの現象を、「イントネーションが平坦化する」と分析している。だが筆者はもう少し細かいプロセスがあると認識している。つまり全体がいきなり平坦化するのではなく、前出で述べたように「第一音節のアクセントを取り去って、反対に低くする」という現象が先に起こり、その結果として残りが平坦化する、と捉えている。その根拠は、筆者の造語だが「発音エネルギー助走の法則」による。


*1(編集部注) 実はITmediaでは標準的な表記スタイルとして、“サーバー”ではなく、“サーバ”を使っている。その根拠として、内部的にはいろいろ小ざかしい理由付けがされているのだが、要はコンピュータ(コンピューターではない)業界内ではこうした言葉で、最後の音引き1個を“惜しむ”ほうが一般的かつ伝統的(?)という判断からだ。つまりメモリも“メモリー”ではなく“メモリ”である(固有名詞は別)。だが、本文ではその内容に合わせて“サーバー”としている。

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