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GeForce 6800シリーズに秘められたNVIDIAの戦略とは(2/3 ページ)

» 2004年05月28日 17時13分 公開
[トライゼット西川善司,ITmedia]

──FP64バッファの制限を完全に取り去ったというGeForce 6800シリーズですが、プライマリバッファやバックバッファとしては確保できないのですか?

タマシ氏 NVIDIAの用語定義として「フレームバッファ」というのはレンダーターゲット(3Dグラフィックスの描画先)を意味します。プライマリバッファ/バックバッファとしては確保できません。ただし、テクスチャフォーマットとしては利用できます。これは用語の定義の問題ですね。

──つまり、直接表示する機能は持たないということですか。「GeForce 6800シリーズにはFP-RAMDACの搭載があるのでは」と報じたメディアも多かったようですが。

タマシ氏 GeForce 6800シリーズにFP-RAMDACはありません。GeForce 6800シリーズのRAMDACは10ビットの整数RAMDACです。表示そのものは整数バッファからの表示になります。

──直接表示できるという説明が発表会でありましたが。

タマシ氏 ええ。GPU側でFP64バッファの内容を32ビットカラー表現範囲に自動で丸め込んで表示する仕組みをGeForce 6800シリーズに持たせています。しかし、この機能について開発者に意見を求めたところ、ほとんどの開発者は「自前のトーンマッピングで制御したい」と答えました。そのため、この機能は現在無効にしてあります。

──GPU側で直接FP64バッファの表示を面倒見てくれれば、フィルレートの節約になると思いますが?

タマシ氏 それはケースバイケースだと思います。FP64バッファは、1ピクセルあたり32ビットカラーの2倍になる64ビット、8バイトの容量を占めることになります。これを常に走査出力しようとすると、ビデオメモリ帯域を常に従来の2倍消費することになります。これに対し、自前でトーンマッピングの処理系をもつことは二つのメリットがあります。

 第一に、トーンマッピングシェーダの処理系自体はそれほど高負荷ではないということです。言い換えればGeForce 6800側でやっても開発者による自前シェーダでやっても、パフォーマンスに変わりはないということです。

 第二に、トーンマッピング処理は開発者が独自に映像の作り込みが行えるフェーズであり、ヒストグラムから映像を変調させるなどの、さまざまなアイデアによる、アーティスティックな表現が行える部分です。GeForce 6800が提供するFPバッファの自動走査出力機能を使った場合はそうしたことはできません。

 以上の理由から、この機能は当面無効にしているのです。

──この「隠し機能」を有効化するとした場合はOpenGLエクステンション(拡張仕様)として提供するようになりますか。

タマシ氏 Direct X(Direct3D)とOpenGL双方で使えるようにします。ただし、現在、ほとんどのHDRレンダリングが自前でトーンマッピングを行っているわけで、パフォーマンス的にもそれほどメリットがないことを考えると、これを有効にしてもあまり使われないでしょうね。

 それとは別に、GeForce 6800シリーズベースのワークステーション版のQuadraでは、DVIや10ビット非圧縮SDI出力に対応させる予定があります。これに対応できるRGB10ビット、すなわち10億色入力対応ディスプレイも2004年末に発売が予定されていますが、いずれにせよ、プロフェッショナル向けとなっています。

 以上がFP-RAMDACに関するタマシ氏の見解だ。さて、ここまでの話をまとめると、

(1)GeForce 6800シリーズにはFP-RAMDACは搭載されていない

(2)FP64バッファの自動走査出力機能は実装されているが、現在は無効にされている

 と、いうことになる。

 では、使われもしないFP64バッファ自動走査出力機能はなぜ搭載されているのか。これは(1)と(2)の事実からほぼ自明という形で導き出されるのだが、この機能は独立したハードウェアブロックで処理されるものではなく、GPUの内部マイクロコードで実行される、いわばソフトウェア的な機能ではないか、と推測される。いわばプリセットのトーンマッピングシェーダが実行される、というイメージだ。

 こう考えると「自前のトーンマッピングシェーダで実行するのと大差がなく、パフォーマンス的なメリットがない。」と、やや否定的な見解を述べたことにも合点が行く。

 タマシ氏の言うとおり、ここまでメリットのない機能なのならば、事実上、この機能が大きく注目されるようになることは、ほとんどないと思われる。

NVIDIAの全面支援のもと、FP64バッファによるHDRレンダリングパイプラインをベースに開発が進められているEPIC GAMESの「Unreal Engine3」。このようなクオリティの映像がリアルタイムに動く。GeForce 6800シリーズの発表会では、この映像をGeForce 6800 Ultraを使って実際に動かしていた

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