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ペイテレビを生かすスカパー!の戦略(2/2 ページ)

» 2004年09月22日 12時18分 公開
[西正,ITmedia]
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 一つは、ゴーイングコンサーンの企業として、単なるプラットフォーム会社ではなく、コンテンツアグリゲーターとしての新たな収益源を確保していくということである。スカパー!自身がオリジナルコンテンツを持って、マルチユース展開をしていくということだ。

 もう一つは、ペイテレビ側が単独でコンテンツ投資を行っていく体力を持ち合わせていない場合などに、これまのハードのインセンティブに使ってきた資金を投入することにより、ペイテレビのコンテンツ投資を支援していくというものである。

 特に、後者については、フリーテレビである地上波に伍していくだけのコンテンツを用意する必要があるだけに、プラットフォームからの支援なくしては到底実現し得ないことだ。今のスカパー!の重点施策も後者のウエイトが高い。

 地上波局が最強のコンテンツ制作プロダクションである理由は、制作に充てる資金力が豊富であるのと同時に、出口としてのチャンネルを持っていることにある。

 黒字化を成し遂げたスカパー!ならば、相応の資金力もあるし、多チャンネル放送のプラットフォームであるだけに、出口としてのチャンネルも豊富にある。地上波との差異化を示せるだけのコンテンツを制作するための条件は、同じになってきたということだ。

 スカパー!は、ペイテレビ事業者あるいは制作プロダクションと組んでコンテンツを制作し、ファーストランをペイテレビのチャンネルで行うようにする。もちろん、ペイテレビ事業者側も、可能な限りのコンテンツ投資を負担するわけだが、一社単独で行うよりは当然負担は軽くなる。

 そうして作ったコンテンツは、二次利用として、海外に番組販売していくとか、DVD化するとか、あるいは、地上波に売ることだってできる。リターンが見込めるということは、事業として成り立つことを意味するわけだから、ファーストランとして通用するだけのコンテンツを制作することにも力が入るだろう。従って、“資本を投下して良い物を作る→売れる→さらに資本を投下して良い物を作る”という好循環が生まれてくるに違いない。

 スカパー!の株主企業も含めて、ペイテレビマーケットの伸び悩みを指摘する者は多かったが、それでいて、肝心のペイテレビ事業者でありながら、コンテンツ投資を怠ってきたところが多かったのは事実である。

 ペイテレビの市場のさらなる拡大を望むのであれば、いつまでもフリーテレビである地上波の作ったコンテンツを再利用するだけで済ませているわけにはいかない。それと同時に、何の努力もせずに、プラットフォームに対してただ期待しているだけであったり、不満を言ったりしているだけでは、一向に状況を変えることはできない。

 スカパー!がコンテンツ投資に積極的になっているといっても、二通りの意味合いがあることを認識しておかないと、今後の日本のペイテレビ市場の拡大のスピードを読み誤ることになる。

 そもそもは、ブロードバンド利用の伸び悩みを憂う識者たちも、コンテンツ不足を理由として挙げていたはずである。だから、コンテンツに投資することなく、インフラ側の技術革新だけに注力していたのでは、ユーザーがついてこないことなど、今さら改めて論ずるまでもないことだろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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