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サーバ型放送〜異なるNHKと地上波民放の思惑(前編)(2/2 ページ)

» 2004年10月08日 14時11分 公開
[西正,ITmedia]
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 そういう意味では、「第三者がメタデータを作れるような環境ができること」自体は望ましいことになる。そこまでは容認し、元のコンテンツ制作者の権利や出演者の権利を侵害するようなメタデータが、勝手に作られ、使われることに関しては排除していこうというのが、放送事業者の基本方針と言えるだろう。

 英会話の番組を例に採ると、放送局自身もある種のメタデータを作り、視聴者に提供することによってダイジェスト的な見せ方を可能にするのとか、ドラマ仕立てになっているスキットの所だけをつなぎ合わせて見られるようなメタデータを提供できる。

 これとは別に、学習教材を提供することをビジネスとしている事業者が、英会話の番組を素材として使うメタデータを作るということも考えられるだろう。そのメタデータを使って番組を見ると、TOEIC受験用に色々な例文が追加される、とすればこうしたメタデータには大きなニーズがあるだろう。

 また、同じ番組を素材としながらも、旅行会社などが独自にメタデータを作り、それを使って見れば、観光旅行用に最適な番組になる――といったものにもニーズがあるはずだ。そういうバリエーションができてくれば、新たなビジネスを次々と生み出していくことになるだろう。そうした多様性は確保しつつも、英会話の番組に出演しているタレントが失敗したシーンだけをつなげて見るためのメタデータを作るといった行為については、明確に排除していく方針を示しているのだ。

 前者に挙げたようなメタデータを作る際には、放送事業者がライセンスを付与することになるので、第三者が作ったメタデータでも、決して「勝手」ではない。放送事業者の許諾とかライセンスの存在を前提として、第三者が作るメタデータを積極的に認めていこうという方針については、NHKも民放も全く同じスタンスを取っており、両者の思惑に食い違いは見られない。

「放送と通信の融合」という視点

 サーバ型放送とは、サービスというよりも技術的なインフラという側面が強い。改めて、放送と通信の融合を意識してみると明らかになるのだが、実際には伝送方式一つを取ってみても、放送と通信とでは全く違った世界になっている。

 そのため、同一端末が全く異なる世界のものを両方ともそのまま受けようとすると、機能的に重くなってしまう。そこをできるだけ共通化させようというのが、サーバ型放送のそもそもの狙いである。インターネットでコンテンツを流通させる場合、エンド・トゥ・エンドで暗号がかかっていて、見る時に暗号を解くという形になっているが、それと同じ仕組みで放送を流そうとしているのが、サーバ型放送であり、最終的な狙いは、受信端末であるテレビ側のコストを下げようということになる。

 その意味で、サーバ型放送は「放送」と「通信」という両方の世界から入ってくるコンテンツを連携させ、一台のテレビで見られるようにしようとしたものといえる。だから、放送事業者は二つの伝送路を使えるということを前提として、どういうコンテンツ展開を図っていくべきなのかをよく考えていかなければいけなくなる。

 こうした点から見て、民放にとっては積極的になれない事情があることは良く分かる。だが、NHK側も、自分たちのことだけを考えて仕組み作りを急いでいるわけではない。彼らが規格化を急ぐのは、放っておいたら、おそらくどこかの誰かがこういう仕組みを勝手に作ってしまうかもしれないという懸念があるからだ。

 それが誰かは分からない。だが国内、国外のどこかのメーカーや通信事業者が、自分たちに都合の良い勝手な枠組みを作って、そうしたサービスを提供することをのを容認するくらいなら、それに先んじて日本独自の規格を作っておこうというNHKの考え方は間違っていない。

 すなわち、NHKが行うサービスも、フジテレビが行うサービスも、WOWOWが行うサービスも、その中身こそ違っていても、技術的には同じ仕組みの上に乗っていて、受信機の方はどこのメーカーが作っても同じであるという「秩序」を先に作っておこうとすることには大いに意義があることだと思う。

 その規格やインフラができ上がった時に、それに乗ってどのようなサービスを行っていくかは、NHKも民放もこれから考えていくべきことだ。今までのビジネスモデルとバッティングする部分は、民放だけではなくて、NHKにもあるかもしれない。そこをどう調整して、バッティングする部分を少なくしつつ、新しいビジネスを立ち上げていくのかということが、NHKと民放の今後の共通課題になるのではなかろうか。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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