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地上波のビジネスモデルが壊れていくことは、視聴者に幸福をもたらすか?(1/2 ページ)

» 2005年05月06日 10時18分 公開
[西正,ITmedia]

危機にさらされる地上波のビジネスモデル

 NHKの受信料不払い運動は拡大する一方である。3月末で80万件弱まで増え、海老沢勝二会長が辞任し、理事の顔ぶれを一新しても、一向に収まる気配はない。NHKの一部職員の不正が明らかになって以来の動きだが、基本的には受信料の支払いを拒む口実になったに過ぎないと筆者は考えている(4月15日のコラム参照)。一度払わなくなった人は、NHKがどのような改革を行おうとも、二度と払うようにはならないだろう。

 このまま受信料収入が減少していけば、NHKは受信料収入で地上波2チャンネル、BSデジタル3チャンネルにラジオ3チャンネルを運営していくことが難しくなっていくことになる。そうなれば公共放送としてユニバーサルサービスを維持していくために、スクランブル放送などによる“完全有料放送化”も視野に入れていかざるを得なくなるだろう。

 一方、民放の広告収入については、これまで景気の影響を受けやすいといった指摘はあったものの、他の広告媒体に比べて優位性が高いことから、2兆円規模のマーケットを維持してきた。しかしながら、録画・蓄積技術の飛躍的な向上の中で、“CM飛ばし”に対する懸念が拡大し続けている。状況はアナログ時代のVTRとは明らかに異なってきており、広告放送の基盤そのものが揺るぎだすのも時間の問題となってきた。

 サーバ型放送に対しても、民放側は強い警戒感を抱いてはいるが、ユーザー側で自由に蓄積、編集が行われることの方が今後の番組制作に当たっての重大事になるため、まずは放送局側がイニシアチブを持って進める方向に舵を切らざるを得なくなっている。

 録画・蓄積に関する技術の向上で、ユーザーの利便性が高くなることは間違いない。民放側はサーバ型放送を受け入れることで、少しでもガードを固めたいところだが、ユーザーの利便性を第一義に考える家電メーカーとのせめぎ合いは今後も収まりそうにない。

 録画・蓄積によるタイムシフト視聴が進んだとしても、CMを飛ばされるとは限らないと放送局サイドが主張しようにも、肝心のスポンサー企業の関心事がリアルタイムの視聴率にある以上、広告料収入への悪影響となることは間違いないだろう。

 CMを見なければ、視聴者はどのようにして商品情報を知るのか、そもそも家電メーカーも利便性の高い録画・蓄積機器を宣伝するに当たって、テレビCMを使っているではないかという議論は、今に始まったことではない。CMが始まると視聴者は途端にザッピングを始め、瞬間視聴率が落ちるという現象は、従来からあったことである。

 だから、懸念材料は次々出てくるかもしれないが、結局のところ何も変わらないと楽観視する人もいる。しかし、ここ数年のHDDの大容量化、レコーダーやサーバの低価格化には驚くべきものがある。過去の経験則に頼って安穏としていたのでは、テレビ広告マーケットの縮小につながることは明らかだ。

 そしてここが肝心なのだが、NHKのケースも、民放のケースも、現在起こっている変化が視聴者本人にとって本当に良いことなのか、悪いことなのかというところにまで、視聴者側の意識が及んでいない。それこそが筆者には大きな問題だと思われる。

 視聴者がNHKや民放の番組を視聴する時、放送局の収入源についていちいち考えることなどないだろう。NHKは受信料収入で成り立っており、民放は広告収入で成り立っていることは知っていても、自分一人の視聴スタイルが放送局の経営に影響を与えるなどと思うわけがない。

 受信料を払わなくても罰せられるわけではない。自分が払わなくても誰かが払うだろうという程度の考えであろう。しかし、そうした「自分一人の視聴スタイル」の積み重ねによって、放送局の経営に影響が及ぶことは、NHKに対する受信料不払いのケースがよく示している。

 もちろん、「民放の番組を見たいのなら、CMを見るようにしよう」などと主張することは馬鹿げている。ただ、メーカーとユーザーが一体となって、あまりにもCM飛ばしを強調することは、ほどほどにした方が良いのではないだろうか。スポンサー企業の心理に悪影響が及ぶほどの大合唱が続けば、民放のビジネスモデルは変わらざるを得なくなってしまうからだ。

実現しかねない不幸なシナリオ

 仮に、NHK、民放による地上波放送のビジネスモデルが変わることになると、どういう結果にたどり着くか、想定してみよう。

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