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NHKの受信料問題を再論する――不払いに歯止めをかけるには西正(2/2 ページ)

» 2005年09月09日 18時08分 公開
[西正,ITmedia]
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 そういう意味では段階的に行っていくしかないだろう。ただ、たまたま現在、地上波デジタル放送の再送信の手段として、従来型のCATVに加え、IP方式や、スカパー!、衛星を経由する方法が検討されている。

 こうした再送信手段が実現可能なものかどうかは、実証実験の結果を待って判断されることになるが、今の感触では実現する方向に向かっているようだ。

 IP方式による再送信や、スカパー!、衛星経由での再送信が行われることになると、実質的にはスクランブルがかけられるのと同じような形になっていく。とすれば、これをスクランブル化の第一歩とすることができるのではなかろうか。

 例えば、一部では未だに勘違いされているようだが、IP方式で再送信するといっても、放送番組がインターネットに乗って世界中にまき散らされることになるわけではない。むしろ、非常にクローズドな環境で視聴されることになる。だからこそ、民放の県域免許に対応したエリア限定も可能となるのである。その点については、全国一波の衛星によっても、ICカードによりエリア限定を行えるのと同じ話である。

 逆に言えば、民放各社として系列ネットワークを生かしていくためには、エリア限定だけは絶対に守ってもらわないと、とても新たな再送信手段にOKすることは出来ないというところだろう。

 そうだとすると、IP方式や衛星を通じて地上波デジタル放送の再送信を受ける人は、そのエリアに住んでいることを証明しなければならなくなる。住民票くらいは見せて、ID、パスワードやICカードを受け取ることになる。そうした手続き自体は簡素なものだろうが、そうなればNHKの受信料を払っている人かどうかは明らかになってしまう。

 これまで「ウチは見ていませんから」という理由で受信料の支払いを拒んできた人たちも、「見ていない」と言いながら、見るためのID、パスワードやICカードを渡してくれということは、さすがに言いにくくなるはずだ。

 NHKの側にその気があろうとあるまいと、新たな再送信手段が認められることになれば、NHKの放送にスクランブルがかかるのと同じ効果になるので、受信料の不払い者がNHKの番組を視聴することはできなくなる。

 そういう形になる世帯が全国のどれだけを占めるかは定かでないが、少なくとも受信料を払わないと番組を視聴できないという世帯が出てくることになるのは確かだ。なまじ一部の地域世帯に限ったことになると、それに対する不平不満が出てくることが予想されるが、そうかと言って不払いを主張し続けるのも気がひけるということになっていく可能性は高い。

 であれば、一部の地域世帯に限るのではなく、全国一律に、NHKの番組にスクランブルをかけるべきだという考え方の方が、少なくとも公平感の見地からは妥当性を帯びてくる。

 もちろん、災害時の報道責任の問題はあるが、そういう場合、NHK側の判断でスクランブルを一斉に解除することはできる。だから公共放送としての役割を果たせないということにはならない。

 NHKの受信料支払いを巡る状況は大きく変わってくることになるかもしれないが、それでも、急にペナルティを科すような措置が取られるよりはましなのではなかろうか。少なくとも、本当に見ないのであれば受信料は払わなくてもいいのである。英国のBBCモデルに持っていかれることに比べたら、国民の側に裁量の余地が大きく残されていることになるからだ。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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