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コラム
» 2006年06月19日 09時00分 公開

【新連載】金融・経済コラム:ネットバブルはまだ始まっていない

経済番組コメンテーターであり、M&Aアドバイザリーや財務コンサルティングを手がける保田隆明氏の新連載コラムです。IT業界を金融・経済面から語っていただきます。

[保田隆明,ITmedia]

 昨年1年間でベンチャー企業向けの投資ファンドは大きく増加しました。それらのファンドの設立背景には金余り現象、リスクマネーの増大ということと同時に、Web2.0的なインターネット関連企業への投資をドンドン増やしていこうとするファンド側の目論見もあったはずです。それは、ブログ、ソーシャルネットワーキングサービスなどコミュニティ、コミュニケーション系の素人にも分かりやすい新たなウェブサービスが定着してきたことで拍車を掛けたと思われます。

 去年1年間は日経平均は約40%上昇し、そしてWeb2.0ブームの到来。イケイケドンドンの雰囲気の中、インターネット関連ベンチャー企業への投資熱が再度ヒートアップしてきました。

 しかし、そこに勃発した2006年1月のライブドア事件。そして6月の村上ファンド代表の村上氏の逮捕劇、そして乱高下する日本の株式市場。そんな流れの中、一時はネットベンチャー企業への投資に傾倒しかかっていたベンチャーキャピタルも、「ネット関連投資への割合を減らそう」と及び腰になってきているようです。

 「バランスの取れたポートフォリオ投資」を標榜するのは投資者としては当然のことですので、今更何をという感じもしますが、Web1.0すらやっと理解できるかどうかという金融機関が、「ちょっと待てよ。自分たちは収益性や将来性をキチンと分析して投資をするというスタンスを忘れつつあるんじゃないか?」とライブドア事件、村上ファンド事件をきっかけとして自問自答し始めたということだと思います。実際のところはネットビジネスの収益性や成長性を分析することができない、というところだと思いますが、まあ、そこは自ら認めるわけにはいかないでしょうが……。

 ただ、ファンドには昨年集めてしまったお金がたんまりと残っています。そのお金をインターネットビジネス以外のベンチャー企業へドンドン投資をしてお金を運用すればいいわけですが、最近のベンチャー企業のうち、インターネットに関連しないビジネスというのはあまり多くはないと思います。そうなると、自ずと投資できる先が限られてきます。その限られた中で昨年集めたお金を全部運用する、というのはもしかするとキツイのではないかと想像します。

 キツイのであれば、集めすぎたお金の一部を投資家に返還すればいいのですが、投資ファンドはそれだけは絶対に行いません。というのは、ファンドは集めたお金に対して毎年数パーセントの運用管理費というものを頂戴しています。100億円のファンドで運営管理費が2%であれば、毎年2億円の売り上げがファンド運用者に立ちます。つまり、100億円を集めた時点で2億円が毎年寝ていても入ってくるわけです。従って、その100億円のうち、例えば半分を投資家に「集めすぎちゃいましたので、返還します」と言って返すということは、運営管理費も2億円から1億円に減ってしまいます。ファンド運営者にとって売り上げが1億円減るとインパクトは大です。

 従って、ファンド側は一度預かったお金を返還することはなく、とにかく何が何でもどこかに投資をする、もしくはお金を張る(博打をする)わけです。

 ファンドには通常満期があります。7年とか10年とかですが、例えば7年間の場合は最初の2年ぐらいに投資を終え、残りの4〜5年で投資を回収する(投資した先の株を売却する)必要があります。株の売却方法として最も一般的なものはIPO、株式公開です。ただ、株式公開にこぎつけるにはどんなに早い企業でも準備を始めてから3年ほどかかります。また、株式市場の相場しだいではなかなか公開ができないこともあります。

 そんな中、もうひとつの有効な株の売却手法としては、投資先企業がM&Aで売却されるときに株を売るというものです。いわゆる転売行為になるわけです。最近、新聞などを見ていてもご存知のとおり、日本国内でのM&A件数は右肩上がりです。企業が成長戦略を模索する上でM&Aは一般的な行為になってきています。

 しかし、それは全体的に一般的な行為になってきているというよりは、業界ごとに濃淡がはっきりしていると思います。例えばいわゆる大企業では、「M&Aは積極的に考えています」とは言いながらも、まだまだ10年に1度の行為でしょうし、対称的にインターネット企業では、移り変わりの速い業界の特性上、ライブドアのように粉飾決算を目的としなくても、1年に何度もM&Aをする人たちもいますし、M&Aというものが従来のエスタブリッシュメントな企業に比べると明らかに有効&日常的なわけです。

 そうなると、ベンチャー投資ファンドにしても、やはりインターネット関連企業というのは、後々株を転売しやすいという意味では投資しやすい先、ということになります。ただ、最近はライブドアショック、村上ファンドショックなどで、その投資しやすい先への投資は危険だ、とベンチャーキャピタルの上層部のエスタブリッシュメントな人たちが「思い込んだ」ため、本来であれば流れていたであろうネットベンチャーへお金が流れるのが、もっと時間が経ってからということになると思います。

 もっと時間が経つということは、その分ファンドの満期が近づいてくるわけです。ファンドは満期を迎えるとお金を投資家に返還しないといけません。満期時に元本が保証されたぐらいでは投資家は全然満足しませんし、そもそも投資もしていなかったということになると、「お前らは管理報酬を泥棒しただけじゃないか!」と言われてしまいますので、なんとしてでも投資はしようとします。そして、満期が近づいてくると、より早期に株を転売できそうな企業への投資を進めることになります。つまり、インターネットビジネスへの投資がまたスポットライトを浴びます。

 この時になって、やっとネットバブルが到来するのではないかと思います。

 集めすぎたお金、運用しようと思っていた先のインターネットベンチャー企業に対するベンチャーキャピタル上層部の必要以上の及び腰、そして行き着く先のネットバブルの到来、これを避けるためにはベンチャーキャピタルにネットビジネスを理解する人、分析できる人が必要なのですが、そのような流れができてくるかどうか、注意深く見て行きたいと思います。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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