ITmedia NEWS >

ネットベンチャー3.0【新連載】Web2.0ルポ(2/3 ページ)

» 2006年07月31日 12時01分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]

 さて、ルーク19代表取締役社長の渡辺さんは、私がある雑誌のインタビューで取材した際、次のように話していた。

 「もともと、コインパーキングのビジネスみたいなものにすごく惹かれていたんです。狭かったり、建物を建てにくかったりして売れ残っている土地を持っているオーナーと、付近に駐車場がなくて困っているドライバーをうまくマッチさせている。需要と供給を見事にぴたりと合わせていると思うんです。ああいうビジネスをITを使ってやれないかなと思ってたんですよね」

 「インターネット広告は、まだ無限の市場と可能性を持っていると思ってた。でもポータルはいまは日本にはヤフーや楽天ぐらいしか大手がない。だったらそれに匹敵するぐらいのポータルサイトを作り上げることができたら、広告収入だけでも莫大な金額になるはず。私たちは技術はまったくわからないから情報システムを作り上げることはできないけれど、ポータルサイトだったらアイデアで勝負できるんじゃないかと思った」

 先に述べたように、ルーク19の創業者2人は、コンピュータやインターネットとはまったく無縁の業界からやってきた。だからインターネット業界に対する理解は乏しく、話している言葉にも若干あやふやなところがある。技術にも明るくなく、サンプル百貨店のウェブ制作はすべてアウトソースしている。

 しかしその一方で、本能的にニッチなマーケットを探り出し、まったく新しいビジネスモデルを生み出すある種の動物的能力は、他の人よりも秀でている。たとえばサンプル百貨店では、サンプルを配布する企業に対し、年間登録料百万円に加えて、サンプルを1種類配布するごとに10万円という価格を設定している。販促費としては決して安くはないが、テレビや雑誌媒体などへの広告宣伝費と比較すれば、2桁も3桁も安い価格といえる。渡辺さんは「会員が大量に集まれば、テレビや雑誌並みのマーケティング効果を出せる自信はあった」と話すのだが、このあたりはテレビや雑誌などの広告=マスマーケティング(広告)から、インターネットを中心とした販促=ナノマーケティングへの移行のダイナミズムを、うまくとらえている。そのあたりの時代を読む嗅覚のようなものは、非常に興味深い。

 つまるところベンチャー企業というのは、ビジネスモデルこそが肝なのであって、それ以上でもそれ以下でもない。優秀な技術力を持っていても、それをリアルなビジネスにドライブさせる力がなければ、単なる趣味の技術でしかない。逆に営業力一本の会社は、必死で頑張り続ければ売り上げこそ維持できるかもしれないが、爆発的な成長は望めないし、社会に対する貢献もあまり期待できない。秀逸なビジネスモデル――望めるのであれば、卓越した技術に裏打ちされた秀逸なビジネスモデルと、それに資金、人という三本柱がきちんと成立するのであれば、そのベンチャーは離陸を約束されているといっても過言ではないだろう。そしてそうした企業こそがミッションを明確にし、社会に価値を還元していくことも可能になるのである。

 しかし1990年代までは、この当たり前の事実は決して当たり前ではなかった。新しいビジネスモデルを創出したベンチャーは決して多くなく、大半が営業力中心の会社――極端な言い方であることを承知でいえば、大企業のエピゴーネンでしかないという面もあった。

 たとえばライブドア。1996年に設立された前身のオン・ザ・エッヂはもともと、ウェブ制作やネットワーク構築を得意としていたB2B企業で、とくだん新たなビジネスモデルがあったわけではない。ただ堀江貴文前社長がこのビジネスをスタートさせた時期がきわめて早かったという先行者メリットがあったことに加え、異常なまでの強い営業力を持っていたことから、同業他社を蹴散らして成長することができたのだ。

 楽天も同様だ。1997年に設立された同社は、ショッピングモールビジネスで急成長した。だがショッピングモールは楽天が発案したビジネスモデルではない。ショッピングモールはアメリカから輸入され、日本の総合商社各社が当時さんざん手を出した。しかし、なかなか中小企業や店舗の顧客を取り込むことができず、「ショッピングモールでは儲からない」と言われていた業種だったのだ。楽天が優秀だったのは、当時月額数10万円の出店料が常識だったこの業界に、月額5万円というディスカウントで乗り込んで、うまく顧客をさらってしまったことにあった。価格競争を仕掛けて市場を制圧し、その後に利益の回収に動くというのは優れてニューエコノミー的(収穫逓増モデルである)だったけれども、しかしそこで何らかの新たな価値創造やアイデアの創出があったかといえば、かなり疑わしい。

 サイバーエージェントにしても、状況は同じようなものだ。当時、ようやくリアルな広告世界に認知されつつあったインターネット広告というフィールドの先っちょをうまくつかみ、それをビジネス化していった藤田晋社長の手腕は優れているけれども、ビジネスモデルを生み出すパワーは乏しかった。GMOインターネットや光通信などにしても、同じようなことが言えるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.