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ネットベンチャー3.0【新連載】Web2.0ルポ(3/3 ページ)

» 2006年07月31日 12時01分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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 インターネットベンチャーは現在、第3世代だと言われている。私がこの連載でネットベンチャー3.0というキワモノのような言葉を使ったのも、第3世代という意味をより深く受け止めたいと思ったからだ。

 第1世代は、1970年代から80年代にかけて設立された初期のネットベンチャーである。ソフトバンクやアスキーのような企業がそうだ。これらの企業はネットベンチャーという言葉はふさわしくなく、今の呼び方でいえばITベンチャーということになるだろうか。ソフトバンクの当初のビジネスモデルはソフトウェア流通とパソコン雑誌の出版。またアスキーもパソコン雑誌がメーンだった。そして当時、新人類起業家と呼ばれた両社の経営者、孫正義氏と西和彦氏の2人に共通する特徴はといえば、2人とも「ジジイキラー」だったことだった。自分よりも年配の人をたらし込んで、仲良くするのが異常なほどに上手だったのである。

 卓越したジジイキラー能力を持っていた2人がこの時代のベンチャーの代表選手であると言うことは、何を意味しているのか。一言で言えば、この時代においてはオーソリティのある権威――銀行や大企業、官公庁などにうまく取り入って、誰も相手にしていない吹けば飛ぶようなベンチャーの存在を、アピールしなければならなかったからだ。当時はファンドなどどこにも存在せず、ベンチャーキャピタルもわずかしかなく、ベンチャーにカネを投資してくれる金融機関などどこにもなかった。カネを銀行から借りるにしても、支店長から胡散臭い目で見られるのを覚悟しなければならなかった。取引も同様で、検索エンジンを中核とした電子市場などもちろん存在しないから、大企業にいかに入り込めるかどうかが、ビジネスの鍵となったのだ。そんな時代において、新しいビジネスモデルなどあり得ないし、仮に秀逸なビジネスモデルを発案しても、それを具現化させるには途方もないほどの高いハードルをいくつも越えなければならなかった。

 そうした状況は1990年代、インターネットが普及してもあまり変わらなかったけれども、しかしネットの出現によって、少しずつ変化してきた。そしてそんな時期に表舞台に現れてきたのが、現在のライブドアや楽天、GMOインターネット、サイバーエージェントといったベンチャー企業群だったのである。だがこの時期でも、依然としてネットビジネスの主舞台はB2Bで、大企業との取引が中心だった。ブロードバンドが普及せず、一般消費者や地方の中小企業にインターネットの波が到達していない環境の中では、思い切ったB2Cビジネスを展開するのは非常に難しかったからである。おまけにベンチャーを取り巻く環境もまだ不完全だった。ベンチャー向け株式市場の東証マザーズやヘラクレス(当時はナスダックジャパン)が登場するのは1999年まで待たなければならず、設立間もないベンチャーをまともな形で支援している金融機関は少なかった。そしてまだ大企業信仰が生き残っていたから、人材もそれほど集まらなかった。

 だからこの時期のB2Bベンチャーは勢い営業力が中心となるしかなく、それが不評を買って「日本のベンチャーは広告屋、営業屋ばかりで技術力がない」と揶揄される結果ともなったのだ。そうやって批判する人たちは「シリコンバレーではビジネスモデルドリブン、技術ドリブンなベンチャーが次々と出てきているのに」と文句を言ったが、当時の状況を考えれば仕方ないことだったのである。

 しかし時代は変わる。21世紀に入ったころから、日本のベンチャーを取り巻く状況は劇的に変わってきた。1977年前後生まれを核とした、20歳代中心の「第3世代」と呼ばれるネットベンチャーが次々と生まれ、そしてそれらのベンチャーはかつての第2世代とは決定的に異なる特徴を持つに至っている。

 それは彼らが秀逸なビジネスモデルや、高い技術力を備えていることである。

 背景にはおそらく、終身雇用制の崩壊によって優秀な人材がベンチャー業界に流れ込んできたことや、ブロードバンドの普及などによるインターネットインフラの醸成、ベンチャー文化がようやく文化として育ってきた歴史的流れなどがある。

 そして彼ら若い世代のベンチャースピリットは今、Web2.0的なコンセプトと激しい勢いで結合し、新たなパラダイムを生み出しつつある。次回以降、そのパラダイムの転換と彼ら第3世代ベンチャーの取り組みについて描いていきたい。

佐々木俊尚氏のプロフィール

1961年12月5日、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年からフリージャーナリスト。主にIT分野を取材している。

著書:「徹底追及 個人情報流出事件」(秀和システム)、「ヒルズな人たち」(小学館)、「ライブドア資本論」(日本評論社)、「検索エンジン戦争」(アスペクト)、「ネット業界ハンドブック」(東洋経済新報社)、「グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する」(文春新書)など。


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