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ロングテールがインフラになろうとしているネットベンチャー3.0【第5回】(1/2 ページ)

» 2006年08月25日 12時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]

 これまでの連載で、インターネットの「原始時代」からWeb2.0的ビジネスを自力で生み出し、展開してきたクインランドオーケイウェイブという2つの企業を紹介してきた。彼らの思考の経路をたどっていけば、Web2.0というのが決して単なる新奇な流行ではなく、インターネットの進化の必然であることがよくわかる。

双方向でなかった90年代のインターネット

 いったん、歴史を振り返ってみよう。

 インターネットは1990年代半ばに、社会の表舞台へと現れた。以降、加速度的にネットは普及し、90年代末には「IT革命」という言葉が頻繁に使われるようになる。ネットによって社会が変わり、「中抜き」という当時流行った言葉に象徴されるように、産業構造さえも変容を迫られるとされた。しかし当時のこうした概念はかなりの部分抽象的なものでしかなかった。実のところ、当時多くの人たちが語っていたインターネットというのは「いまそこにあるインターネット」ではなく、「将来こうなったらいいなインターネット」だった。

 つまり中抜きだ、IT革命だと言っても、しょせんアクセスはアナログモデムのナローバンドで「ピーヒャラヒャラ」とその都度つなぐような原始的な方法であったし、企業の側もどうネットに参入していけばいいのか良くわかっておらず、企業ホームページは単なるカタログでしかなかった。つまるところ、1990年代のインターネットはしょせんは片方向のメディア――それが言い過ぎだとすれば、片方向+アルファ程度のメディアだったのである。

 だから当時のネットへの熱狂に対して、冷めた見方をしている業界人は少なくなかった。おまけにようやく幼年期を迎えたばかりだった日本のベンチャー業界は、有象無象が大量に発生し、技術力もビジネスモデルも不在のままカネだけが大量に集まるといういびつな構造に陥った。そんな中で2000年、光通信の株暴落に端を発してネットバブルが崩壊すると、「それみたことか」とネット業界は袋だたきに遭う結果となった。IT革命は世の中を変えることもなく(いや、実は底流部分ではさまざまな変化を引き起こしてはいたのだが、それらは表面にはあまり浮上してこなかった)、世の中に大きな影響は与えなかったのだ。

 本来のインターネットの理想は双方向であって、ホームページを作る側と見ている側、メールを送る側と受ける側、それぞれがフラットに、同じ土俵でインターネットを使っていくというものだ。その観点から考えれば、池田信夫さんが自身のブログのWeb2.0の経済学というエントリーで、「Web3.0が登場するとすれば、それはインフラも情報処理もピアに分散してユーザー側でコントロールするP2P型だろう」と書いているのは、卓見というしかない。

 なぜならネットワークの理想像というのは決してクライアント-サーバモデルではなく、ピュアP2Pにこそ求められるべきだからである。現在のWeb2.0は、池田さんのロジックに乗るのであれば、ハイブリッドP2Pとのアナロジーで語ることができるかもしれない。

 インフラ(データベース、アプリケーション)がサーバ側に残っているハイブリッドP2Pに対し、ピュアP2Pの世界ではすべてがフラットであり、インフラでさえもが分散化されている。ピュアP2Pに行き着くのであれば、Googleのようなドミナント企業ががインフラを支配するという構造からも、脱却できる可能性があるからだ。

Web2.0に明確な定義がない理由

 話を戻そう。いずれにせよ、Web2.0というムーブメントは90年代に失われつつあったインターネットの理想を取り戻そうという、ある種の復古運動ではないかと思うのである。商品の数々や会社概略や役員構成、商品構成などをただ美しい写真で見せて終わるだけのウェブページが大量に増殖していた現状に対し、「こんなものはインターネットじゃない」というノーを突きつけたのが、Web2.0だったのだ。極論すれば、アンチテーゼなのだ。

 そう考えれば、「Web2.0はこうだ」という明確な定義があり得ないことも頷ける。Web2.0を提唱したO'Reilly MediaのCEO、ティム・オライリー氏のいうWeb2.0も、さまざまな定義によって構成されており、一義的ではない。ビジネスの世界、技術者の世界、マーケティングの世界、あるいはメディア論や社会論など、どの見地に拠って立つかによってWeb2.0の見え方は著しく異なってくるし、だからここ最近刊行されているWeb2.0本や雑誌の記事などを読んでも、Web2.0はどんどん拡散するばかりのように見えてしまう。それはつまるところ、技術者の言うWeb2.0と、広告マンの言うWeb2.0とは見え方が異なってしまうため、そこに混乱があるように見えてしまうのである(本当は混乱などどこにもないはずなのだが)。

 従って私がこの連載で書こうとしているWeb2.0も、それはひとつの切り口でしかないとい――そのことを、この段階で明確にしておきたい。それではこの連載で書こうとしているWeb2.0は、どのようなWeb2.0なのだろうか。

 これまで私は、前に紹介したようなルーク19(サンプル百貨店)やクインランド、オーケイウェイブをはじめ、独自の観点からWeb2.0的なビジネスに取り組んでいるベンチャー企業を数多く取材してきた。そしてそれらの企業の「成長スパイラル」という視点から見ていくと、そこには共通したひとつの特徴があることに気づかされる。サービスのローンチから離陸、そして黒字化と成長を遂げていく上で、同じようなフェーズを踏んでいくケースが多いのだ。

 それらがどのようなフェーズかといえば、次のようなものである。

  1. ロングテールモデルを使ったマッチング
  2. マッチングされた個人・企業・組織のコミュニティ化
  3. コミュニティによって蓄積されたデータベースの極大化

 おそらく現在、日本のインターネットビジネスのメインストリームは、(1)のマッチングの段階にある。

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