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ポータルビジネスはソーシャル化されるのか?(下)ネットベンチャー3.0【第15回】(1/2 ページ)

» 2006年11月10日 11時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]

MMORPGのオープンソース化

 前回、ジークレストのオンラインゲームポータル、「@games」がゲームとSNSの融合を目指しているという話を書いた。そしてこの進化の道筋は、英語圏で約100万人のユーザーを確保している「Second Life」と同一であるということについても言及した。

 Second Lifeは、MMORPG(Massively Multiplayer Online Role Playing Game)のような3D空間とアバターを使い、巨大な仮想世界を作り上げている新たなメディアである。運営会社のリンデンラボ(Linden Lab)がユーザーに対して提供しているのは、三次元のCG世界における空間と地面。それにモデリングツールと貨幣交換システムだ。CG世界には何も存在せず、ユーザーはリンデンラボに料金を支払って、土地や島を購入することができる。さらにモデリングツールを使えば、建物や家具、衣類、あるいは映画や音楽などのコンテンツを自由に作り出すことができる。そしてこれらのモノが、リンデンドルという仮想通貨によってユーザー同士で売買されている。秀逸なデザインの衣服や建物を作り上げる能力を持っている人は、それのモノを他のユーザーに販売して、収益を上げることができるようになっている。

 これは、MMORPGのオープンソース化である。従来のMMORPGが運営企業によって厳重にコントロールされていたのに対し、Second Lifeはユーザーが建物や土地、衣服のデザインすべてを変更することができる。空を飛ぼうと思えば飛ぶことができるし、船に乗りたいと思えば、船を造り出すことができる。3D空間のプラットフォームだけがリンデンラボから提供され、ユーザーがそのプラットフォーム上で何を作り上げ、どのように行動するのかということは、ユーザーのオリジナリティーに任されている。その意味で、Second LifeはWeb2.0的であり、「MMORPG2.0」とでも呼べる新たなパラダイムとなっている。

現実世界の企業がSecond Lifeになだれ込む

 もうひとつ重要なのは、このリンデンドルという通貨が、米ドルと兌換可能なことだ。1米ドルがおおむね300リンデンドルとなっており、リンデンラボの公式サイトや外部の通貨マーケットでリアルマネーと交換できるようになっている。そしてこの仮想空間とリアルマネーがつながっているということが、結果としてSecond Lifeを巨大な市場として後押ししていくことになった。いまやSecond Lifeの中では、1億ドルを超えるマネーが流通しており、そしてSecond Lifeにはリアルマネーを生み出すビジネスチャンスがあることがリアルの世界の人々にも認識され、そして多くの企業を呼び寄せる結果となったのである。

 たとえば世界の大手企業、仮想世界に進出 経済活動、消える境界線というフジサンケイビジネスアイの記事には、以下のように紹介されている。

 この仮想世界に進出したのが、ソニーBMGやトヨタ、アディダスなどの世界的企業だ。現実世界のお金を支払って仮想世界の土地を取得。そこに拠点を作り開発した製品を販売している。たとえば自動車メーカーは、コンピュータープログラマーがデジタルカーをデザインして販売。住人は、好みの車を購入し、運転できる。日産自動車は、独自に設計したドライブコースを建設した。

 スターウッドホテルグループは、仮想ホテルを建設し、実在のホテルのプロモーションを行うとともに、反響の良かったデザインなどを、2008年に営業開始予定の現実のホテルに反映させた。ナイキやリーボックは店舗を経営し、さまざまなデザインを持つスポーツ用品の売れ行きを確かめている。

 ソニーBMGは、共同住宅内の一室を実在のアーティストに提供し、訪れた住人に音楽や映像を視聴させる。ロイター通信は今月、仮想社会に開設した支局から仮想世界と現実世界の両方のニュースの配信を始めるなどさまざまな“企業活動”が行われている。

 大手通信社ロイターも、Second Life内に支局を開設した。ユーザーは「Reuters News Display」というヘッドアップディスプレイを装着すれば、リアルタイムでニュース速報を読めるようになるほか、Second Lifeの敷地に支局を建設し、中では最新ニュースのビデオやテキストが楽しめるようになった。また支局には、実在のロイター記者が常駐し、Second Lifeの中で起きているさまざまなできごとなどを取材し、ブログで配信している

 ブログ「b3 annex」のこのエントリーには、こんな話が書かれている。

SL(筆者註:Second Life)内でReutersを歩いていると、偶然にも、支局長のAdamとチャットすることができた。

彼は「SL内の取材対象は特定のものに絞ってはいないが、特に関心があるのは、SL内でのファイナンスや様々な経済活動だ」と語ってくれた。

 ロイターの興味は、この仮想空間がどのようにしてリアルマネーと融合し、新しい形の市場を作っていくのかということに対する、純然たるジャーナリズム的関心。それに加えて、ロイター自身がこのSecond Lifeというプラットフォームを使って、どのように記事やコンテンツを配信していけるのかを模索すること。その2点にあるように思われる。

 Amazon.comも、この仮想空間でのビジネスを計画しているらしい。前掲のSecond Lifeロイター支局の記事によれば、AmazonはSecond Life内で自社のWebのAPIを提供し、新たなマッシュアップを狙っているようだ。いずれにせよ、Second Lifeの世界はリアルマネーと結合し、まったく新しい独自のマーケットを生み出しつつある。

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