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「コピーワンス見直し論」に分け入るインテルの戦略小寺信良(2/3 ページ)

» 2006年12月25日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

なぜ「インテル」か

 世界的に見ても日本だけでしか行なわれていない現行のコピーワンスという仕様は、PC業界にとっては頭痛のタネだ。来年発売されるWindows Vistaにはエディションによって機能差があるが、ホームユース、特にAV機能としてクローズアップされるのは、メディアセンター機能だろう。

 今の運用規定ではまあ録画機能ぐらいは提供できるかもしれないが、それ以上のホームネットワーク、あるいはポータブルデバイスに対するソリューションがどれだけ使えるのかは、手探り状態だと言える。今後世界中で展開されるであろうサービスも、日本だけ使えないか、あるいはこれまでのデジタル放送対応同様、そこだけWindowsから切り離して各PCメーカーがカスタムで対応するということになるだろう。

 このような袋小路に至る前に手を打ちたいとインテルが思っているのは、理解できるところだ。しかしインテルが考えているのは、単純なDRMのライセンスビジネスではない。上記に上げた5Cでは、DTCPに関してはライセンス料を徴収しないという理念を打ち出している。その代わりライセンスを受ける企業は、その企業が持つ特許のライセンスを他者に対して権利行使しないという条件を出している。これを非係争 (non-assert) 条項と呼ぶ。

 DRMで儲けない、無駄な係争はしない、ということなのである。ではその先にインテルのビジネスは、どう関係していくのか。この問いに対して、説明会終了後の立ち話という非公式な場ではあるが端的に答えてくれたのは、インテル(株)の代表取締役共同社長の吉田和正氏である。

photo インテル代表取締役共同社長、吉田和正氏

 DTCPに限らずこれからのDRMは、暗号化解除といったプロセスをリアルタイムで行なう必要がある。単純にデジタルデータをD/A変換して人間に見せる以上の負荷がかかっていくわけだ。これを解決するソリューションとして、インテルのプロセッサがあるでしょ、ということなのである。

 もちろんこれは日本の事情だけ、あるいはPCに搭載されるプロセッサだけのビジネスで考えているわけではない。AV機器にCore Duoがそのまま乗るわけでもないだろうが、組み込み用プロセッサとしてDRM処理演算が余裕でこなせるとしたらどうですか? ということであれば、どういうビジネスモデルなのかは自ずとわかってくる。つまりインテルとしては、今後のDRM処理は、ソフトウェアが主流になると踏んだわけである。

 なぜインテルがこんなに著作権保護に対して熱心なのか、どういうカラクリなんだということがわからなければ、なんとなく懐疑的になるものだ。反対にビジネスモデルが理解できるならば、インテルの立ち位置も理解できる。話を聞く気にもなるというものである。

新しいCOG(Copy One Generation)

 話をデジタル放送に戻そう。ローレンス氏は席上、コンテンツ保護とユーザーの利便性の解決には、EPNが最善という考え方を示す一方で、別の方法も提案した。それは、DTCPをベースにした新しいCOG(Copy One Generation)である。

 COGと言えば、日本ではコピーワンスの代名詞として使われてきた。Copy One Generationという言葉の意味を厳密に考えてみると、「1世代のみコピー可」という意味である。だが日本の場合、いつのまにかこれが「1世代のみコピー可」ではなく、「1回のみ移動可」という意味に変質してしまっている。

 なぜこのような変質が起こったかと言えば、世代(Generation)に対する考え方が一般的な認識と、ARIBが規定する考え方とズレているから、ということになるだろう。例えば我々がレコーダを使って放送を録画したとしよう。そこからコピーを作ろうとした場合、録画してあるコンテンツを「親」と考える。そこから作ったコピーは、「子供」だ。

 だが現行のCOG運用では、放送波が「マスター」であり、ここにCOGのフラグが立っている。レコーダのHDDに録画した段階で「1世代コピー終了」となり、レコーダ内のコンテンツにはCOGではなく、NMC(No More Copies)フラグが立つ。録画したコンテンツは、すでに「子供」なのである。Copy One Generationの概念からすれば、そこからの孫コピーは許されず、ムーブになるわけである。

 この世代に関する錯誤があるために、一般的には「コピーワンスなのになんでムーブなんだよ」という短絡と混乱が起こっているわけだ。

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