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米国の前例に見る著作権法延長の是非小寺信良(3/3 ページ)

» 2007年01月22日 12時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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時間をかけた議論が必要

――例の国民会議では、著作者自身が保護期間が長いとコンテンツが作りにくい、という論調があるわけですけど。

城所: そこら辺があるから、私も態度を決めかねているわけですけど。著作者の中にもそういう人もいるということは、大いに参考になります。これは延長する場合に日本でも問題になると思うんですけど、時間が経てば経つほど著作者がわからない著作物が増えちゃう。切れればもう公然と使えるわけですが、それがまた20年延びるという問題は出てきますよね。

 米国ではレッシグ教授らが、公表50年後から著作権者に税金を課す、払わない場合はパブリックドメインとするという法律を通したらどうかと提案した。 つまり国の税収能力と税金のデータベースを使って、著作権者の管理を行なうわけである。またこれにより、権利者不明のコンテンツの保護期間を大幅に短縮するという効果もある。


――結局、期間延長は誰のためなんでしょう?

城所: そこも米国ではすでに議論されています。結局延長のメリットを受けているのは、著作者じゃなく著作権者じゃないか、著作権者とは企業だろうと。まあディズニーがそうなんですが。結局は大企業優遇策ではないかということで、立法時にも反対した議員があったわけです。

――つまり先生の目からすると、今の日本の議論は米国の焼き直しのように映っていらっしゃる?

城所: それはありますね。そういう意味では私も、米国の立法時の議論をもっと勉強したいと思っている。あんまり慌てずにですね。日本もまだ輸入超過ならば、まだ時間はあるでしょう。本当に「国益がなんなのか」を考えて。理想論は延長しないほうがいいのかもしれないけど、米国みたいな大国が国益を前面に押し出してくるときに、日本みたいなところが理想論ばかり振りかざして、国益にならなかったら意味ないですからね。


 これまでの延長の是非に関する議論は、クリエイターの立場を中心として行なってきた。しかし知財立国として日本が新たなスタートを切るためには、貿易論的な解釈も行なわなければならないことがわかった。これまでは物理物の貿易で暮らしてきた日本が知財貿易へ転換する場合に、相互主義というカラクリといかに戦っていくか。

 それには延長するか、しないかという2つの道しかないわけではないだろう。すでに議論もなく映画が70年になってしまったことも、問題を複雑化させる。

 日本の輸出コンテンツの最有力はアニメだが、OVAのようなものは「映画」ということにしたほうが得なのか、損なのか。またそもそも現代において、「映画」はどう定義できるのか。フィルムで撮ることか? 映画館で上映されることか? 映画会社が作ることか?

 そう考えると、今まで日本で議論に上ったことは、延長による影響全体の半分にも至っていないことがわかる。米国の議論をもう一度精読すべきことは言うまでもないが、輸出入バランス、戦時加算、資産としての古典の量、アニメ重視の産業構造など、条件が大きく違うことも考えなければならない。しかもこれらの影響を示す具体的なデータは、まだ何ひとつ出てきていない。

 また95年当時と違って、コンテンツのデジタル化、インターネットの影響力が違いすぎる。これらの条件が加わった結果、どのような方向が望ましいのか。単に互いの立場をぶつけ合うだけでは、埒があかない。

 米国で決着するまで8年かかった、保護期間延長問題。やり方を間違えれば、欧米、中韓にやられ放題という結果を招くことになる。日本でも、相当の時間をかけた議論を行なっていかなければならない。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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