わたしが米Microsoftに関する意見や分析をこれほど突然に変えることはめったにない。だが前回のコラムで「Microsoftはついに大ホームランを打った」と書いた自分の間違いを認めよう。
「Mojave Experiment(モハーベ・エクスペリメント)」は確かに理論的には斬新なマーケティング手法だ。少なくとも、Microsoftのように時代遅れの古くさい企業にとっては新しい試みだ。だがこの試みをさらに詳しく観察し、Microsoft Watch読者から寄せられたコメントに目を通した結果、わたしはこの実験を恐らく最もひどいマーケティング手法と呼ばざるを得ない。
わたしは読者の皆さんにおわびする。マーケティングの不在が何カ月間も続いた後だったこともあり、わたしはMicrosoftの放つ光に惑わされてしまったようだ。わたしはMicrosoft特製のクールエイドでも飲んでしまったのだろうか? 悲しいことに、答えはイエスのようだ。Mojave Experimentが失敗であることは幾つかの理由から明らかだったはずだ。その理由とは次のようなものだ。
わたしは10年ほど前からこうした不満を抱いてきた。「ウィザード」は恐らく同社のそうした態度を示す最たる例だろう。Microsoftは顧客に対し、何かを設定するたびに長くて不必要なステップバイステップのプロセスを強要している。2〜3回程度のクリックで済むはずのところを、クリック、クリック、クリックと何度もクリックを強いるのだ。その点、iPodのアプローチは素晴らしい。iPodでは、ユーザーが端末の電源を入れるだけで、音楽の読み込みがスタートする。
Microsoftのアプローチは子供じみている。まるで子供に歩き方を覚えさせている親のように、ユーザーの手を握っているのだ。しかもMicrosoftはユーザーの手を放さない。Windowsユーザーを成長させないのだ。Microsoftは過剰に世話を焼くことでユーザーを押さえつけているのだ。
今回のマーケティングキャンペーンは、ユーザーがあまりに愚かでWindows Vistaがいかに優れているかに気付かないという想定で進められている。
Microsoft Watch読者のケン・ホートンさんは次のようにコメントしている。「企業が面と向かって顧客をばか呼ばわりするとは、なんともすごいやり方だ。その顧客がその後、自分の会社のIT部門に出向いて“皆がVistaはすごいOSだと言っているけれど”と報告したとしても、“この先10年はVistaを導入する計画はない”と返されるだけではないだろうか?」あるいは、その顧客自身がIT部門の人間であれば、「あまりにばかだから」あるいは「ひどいアドバイスをしたから」という理由で解雇されることにもなりかねない。
Microsoftはこのばかげた実験によって、ようやくWindows Vistaに対する「ああそうだったのか!」とか「ワオ!」といった反応を引き出した。昨日わたしが言ったように、「わたしが間違っている」というのは、何かの製品に対して抱く感情として最高のものとは言いがたい。世の中には、自分の間違いを指摘されたり、自分がばかであるかのように遠まわしに指摘されることを好む人などいない。「ああ、わたしってばかみたい」というのと、「わお、これはすごい製品だ」というのとでは、数万光年の隔たりがある。
優れたマーケティングキャンペーンとは、製品のメリットを売り込み、その製品がいかに買い手の生活を楽にするかをアピールするものだ。誰かを愚か者あるいはばか呼ばわりするようなやり方では、気持ちの良い前向きな感情は生まれない。
わたしは昨晩、DVRで録画しておいたテレビドラマ「Saving Grace」を見たのだが、驚いたことに、Appleはこの番組中にiPhoneの広告を2つも流していた。目下、同社のiPhone 3Gは地球上で最もホットな製品の1つだ。iPhone 3Gはブログやマスコミ、クチコミで盛んに取り上げられ、その宣伝効果は何十億ドルとされている。それでもなおAppleはテレビでCMを流すことを選び、自分たちのストーリーを語るためにさらに何億ドルかを費やしているのだ。
そして、15カ月間の沈黙の後にMicrosoftがVistaについて語ることにしたストーリーはと言えば? 「顧客はあまりに愚かでWindows Vistaがいかに優れているかに気付かない」――。わお、なんと素晴らしいマーケティングだろう。
Microsoftにとって、Windows Vistaに対するマイナスイメージをブロガーやレビュアー、掲示板のコメント、そしてAppleの広告のせいにするのは簡単なことだ。だがブログやレビューは理由があってマイナス評価になっているのだ。上級ユーザーの多くはWindows Vistaを気に入っていない。問題は、Mojave Experimentがそうしたユーザーを直接責めるのではなく、動画に収められた人たちを責めている点だ。Vistaの問題はVista以外のすべてにあるとでも言いたいかのようだ。
つまりMicrosoftにとっては、「Vistaには何も問題はない」というのが大前提なのだ。その点は、先週の証券アナリスト向け説明会(FAM)や2週間前の年次パートナー会議(WPC)でMicrosoft幹部が一貫して口にしていたポイントでもある。Microsoftによれば、「Vistaはもう大丈夫だ。Service Pack 1(SP1)で改善された」ということらしい。
ん? それならば、なぜこれだけ多くの顧客がいまだにWindows XPを求めているのだろう? そして6月30日以降、新規PCにWindowsライセンスを2つ搭載して出荷しなければならないにもかかわらず、なぜこれだけ多くのOEMパートナーがVistaよりもXPを熱心に推しているのだろう? どうやら、ここには単なるマイナスイメージ以上のはるかに大きな問題が潜んでいるようだ。
「問題を解決するためにはまず自分が問題を抱えているということを認める必要がある。このキャンペーンから読み取れるのは、MicrosoftがVistaの失敗を製品自体の失敗よりも顧客の無関心のせいにしているということだ。製品が修正されるか、あるいは価格が下がりでもしない限り、Vistaは購入に値すると思えるような製品にはならないだろう」とPhilと名乗る人物はコメントしている。
Microsoftは自らの問題の解決があまり上手ではない。同社には、いい意味で自虐的な企業文化がある。同社の幹部らは自分自身を笑い飛ばすことができる。だが一方では、「自分のせいではない」と顧客やパートナーを責める風潮もある。Microsoftは多くの顧客やパートナーを軽視しているのだ。同社のライセンスポリシーはその最たる例だが、それについてはまた別の機会に語ることにしよう。
侮辱的あるいは責任転嫁の態度は同社の「否認」の企業文化とも関係している。Microsoftには、将来に目をやることで、失敗から目をそらそうとする傾向がある。Microsoftが発するメッセージは一貫して「次期バージョンはもっと良くなるだろう」というものだ。つまり、今問題があるにもかかわらず、「将来に目を向けよう」としているのだ。
Microsoftは未来の製品の研究開発には何十億ドルものコストを費やすが、既存製品のプロモーションにはごくわずかの予算しか充てない。これはまさに「明日はもっと良くなるだろう」という思考回路であり、今ある問題を否定し、研究さえしていれば状況を改善できるという尊大な考えからくるものだろう。
広告に関しては、Microsoftは最悪のしみったれだ。Microsoftは将来の研究開発費を大幅に削減し、既存製品の売り込みにもっとお金を投じるべきだ。確かにMicrosoftも広告を打ってはいる。だが同社のテレビCMといえば、企業ビジョンに関するものであったり、人々が夢を実現する方法に関するものであったりなど、もったいぶったものばかりだ。Microsoft製品で人々の生活をいかに改善できるかをアピールすることによって、顧客よりも自分たち自身がいい気持ちになっているのだろう。
同社が立てた表向きの仮説は「Windows Vistaに直接触れてみれば、人々はVistaを気に入るはずだ」というものだ。だが本音は、同社の仮説は「ちょっと引っ掛ければ、ユーザーは自分の愚かさに気付くだろう」といったところなのだろう。
着想から実行まで、Mojave Experimentの底流には、「われわれは賢く、あなた方は愚かだ」というMicrosoftの尊大な思いが一貫して流れている。Vistaに対して強いマイナスイメージを抱いているユーザーを選び出し、その人たちをだますというのは実にごう慢なやり方だ。Microsoftは「ハッ、ハッ、ハッ! われわれの方があなたより優れているのだ」と言っているようなものだろう。
Microsoftが尊大であるというのは昔から言われていることだが、目下、同社のマーケティング担当幹部はそうしたイメージをさらに強めたがっているのだろうか? 実際、本当に愚かでばかなのは誰だろう?
MicrosoftはVistaのプロモーションに3億ドルを投じたというが、Mojave Experimentがその一環であるのなら、今後、事態はますます悪化することになりそうだ。
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