オンラインサービスを手がけるウノウによるウノウラボ。社員が持ち回りで毎日アウトプットをするブログと内容は自由だが「最後まで仕上げること」を学ぶ開発合宿が特徴だ。
第1回ではポータルサイトgooが運営する「gooラボ」を取り上げた「日本全国ラボめぐり」、おかげさまで大きな反響をいただきました。
第2回の今回は、第1回と同じくサイボウズ・ラボの秋元が、「フォト蔵」や「映画生活」などのオンラインサービスを手がけるウノウを訪問し、山田進太郎社長とエンジニアの山下英孝さんにお話を伺ってきました。
秋元 ウノウラボを作った動機はなんですか?
山田 ネットサービスの会社として、正式に公開できないサービスを実験的に公開し、試すための場所が必要でした。実験的なものを正式サービスとして公開すると、いろいろ問題が起こりますからね。
ただ、サービスの公開だけだと数カ月に1回のような頻度になってしまいます。そこで、毎日発表できるものも作ろうということで「ウノウラボブログ」を同時に始めました。
秋元 いま、社員20名のうち14名がエンジニアということですが、誰がウノウラボに所属しているんでしょうか。
山田 エンジニアは確かに多いですね。誰がラボの人、というのはありません。ウノウラボで発表するようなデモサービスについては、各自が開発合宿とか業務時間外でやってください、ということになっています。就業時間中は普段の仕事をやる。その代わり、良いものができたら賞金を出します。
それとは別に、ウノウラボから始まったサービスを、昼間の仕事として事業プランを立てて何カ月間か続ける、という制度も用意しています。
秋元 ウノウラボの勉強は時間外が基本で、代わりにエクストラで賞金などが出る、と。
山田 社員の学習活動というとGoogleの「20%ルール」が有名です。しかし、会社の仕事を80%で終えるというのは実際なかなかできなくて「結局は会社100%、その他20%の120%になってしまう」という話も聞きました。
だったら本業は本業としてきっちりやってもらって、その枠外でできたものについては別途報いる、というような形がいいのでは、ということで、今のやり方になっています。
秋元 面白いことをやって、それを会社に諮って認めてもらい、それを本業にする、というやり方があるということですね。
山田 そうですね。会社の目標として、世界に対してサービスを展開していきたい、というのがあります。それができるようなプロジェクトが出てきてくれれば、と思っています。
秋元 ウノウラボに入りたいという人はどうしたらいいのでしょうか?
山田 ウノウラボという独立した会社があるわけでもないので、ウノウにエンジニアとして応募いただくことになります。
あるいは、何かやりたいネットサービスがあって、企画ごと持ち込んでいただく、というのも歓迎です。
秋元 ラボブログは持ち回りのグループブログですよね。
山田 当番制で回していき、1日1本のエントリが載るようにしています。だいたい3週間に1回順番が回ってきます。このラボブログの執筆については業務時間を使っていいことになっています。
秋元 ウノウラボのブログといえば、はてなブックマークなどでよく注目を集めていますね。狙い通りというところでしょうか。
山田 そこまで狙ったつもりはなかったんですが、最近はエンジニアの方を中心にかなり読まれるようになってきて、ありがたいと思っています。
ブログを読むと会社のレベル感みたいなものも掴んでもらえるので、そこを踏まえた上で「ウノウでやりたい」と言って来てくれる方が増えてますね。
秋元 公開前に社内でチェックするんですか?
山田 書き手が不安なときに回りの人に見せて確認することはありますが、社内の全員に見せたりというチェックはありません。基本的に本人の判断でそのまま公開してます。
だから「そこまで出しちゃうのか」みたいなのが出ることもありますね。たとえば携帯電話の絵文字変換リストの話なんか、携帯のサービスやってるところにはすごく使えると思うんですけど、まあいいか、という感じで。
秋元 その携帯電話のエントリの例だと、有料でライブラリを売ってる会社だってあるかもしれないですね。
山田 大っぴらにやっているかどうかは分かりませんが、そのノウハウで仕事を取っている会社もあるかもしれませんね。
秋元 この前はテレビでも取り上げられていましたが、ウノウラボといえば開発合宿も有名ですね。開発合宿は全員参加なのでしょうか。どんな感じで運営されていますか?
山田 2カ月に1回、金土日というスケジュールで開催していて、参加は自由です。いついつにやるので来たい人はどうぞ、といった感じです。宿泊費や食費などの経費はすべて会社が負担します。
ちょうど先週行ってきたところですが、そのときは社員とアルバイトを含めて半分以上のエンジニアが参加しました。
秋元 合宿ではこんなことをしなさい、というルールはあるのですか?
山田 内容は完全に自由です。ビジネスに直接つながらなくてもいいし、いま自分が興味持っていることであれば、プログラミング言語も何でもいいですし。そういった縛りはないですね。
秋元 ウノウにとって合宿という形式の利点は何でしょうか?
山田 エンジニアって平日になかなか時間を取ってできないことってあるじゃないですか。そういう作業を、まとまった時間を取ってやってもらえるといいな、というのがあります。いいものには会社から賞金も出します。
秋元 賞金はどれぐらいなんですか? それは1回の合宿につき1人とかですか。
山田 5万円からですね。いいものがあれば何人にでも出しますよ。
秋元 開発合宿は、社員が自分で作りたいものを会社として拾い上げる仕組み、ということなんですね。
山田 そうです。ウノウは日常的にオンラインサービスをやっているので、どうしても普段はそこに注力しないといけません。ただ、それぞれのエンジニアにはそれ以外に個人としての興味やモチベーションがあります。また、同僚が知らない新しい技術や面白い技術を知っているということもあるので、そういうのが合宿で現れてきて、それがきっかけになって新しいアイデアや企画が出てくる、ということもあります。
それから“仕上げること”を学ぶ機会というのはなかなか持てません。ただ単に作るのと公開することの間には大きな差があると考えています。プログラミングでも「なんとなく正常系が動く」というのは、全体からみれば20%ぐらいの完成度じゃないかな、と感じています。その20%を作ることは、実はそれほど難しいことじゃないんですよ。プログラマーって簡単に「あ、それぐらいなら1日でできますよ」って言うんですけど、その「できる」っていうのは正常系の20%だけだったりするんですよね。
(編注:正常系とは、ソフトウェアであらかじめ想定していた行為があった場合、想定していた通りの結果を返す動作のこと。これに対して想定外の行為があった場合を異常系と呼ぶ)
秋元 「どうやったら実現できるか、分かった時点で完成した気になる」というのはプログラマーにはありがちですよね。僕自身にもそういうところがあって、よく反省しています。
山田 やはり「きっちりアウトプットまで持っていく」というのがベンチャーとしてもすごく重要なところなので、それを身に着けるためにもラボや開発合宿を活用しています。
ブログも同じですね。ネットで大勢に向けて公開するわけで、間違ったことや曖昧なことを書くと突っ込まれたり、恥ずかしい思いもします。そういうことがないように真剣に調べなければいけなくなり、だからこそ知識をちゃんと身に着けられるのではないかと思います。
秋元 ウノウラボは3月17日で1周年ということなのですが、ウノウラボの1年目は成功、とみていいんでしょうか?
山田 そうですね。CTOの尾藤がウノウラボに非常に力を入れてくれていて、それが非常にうまく回るようになってきています。
1年前に始めたときは、人材の採用がなかなか難しい状態でした。今はラボブログを読んだことでウノウに興味を持ってくれる人が増えていて、実際にいい人が来てくれているので、成功と言っていいんじゃないかと思います。
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