日本のIT系ラボを訪問する新連載企画「ラボめぐり」。第1回はサイボウズ・ラボの秋元裕樹さんが「gooラボ」を訪問してきました。
最近IT系の会社で「○○ラボ」というのをよく耳にするような気がしませんか? 日本には一体いくつのラボがあり、そこではどんな活動が繰り広げられているのでしょうか。訪問して話を聞いてみることにしました。
第1回は、ポータルサイトgooが次世代サービスの実験場として公開している「gooラボ」です。訪問するのは、自身も「ラボ人」であるサイボウズ・ラボの秋元裕樹さん。gooラボの運営に携わる内山匡さんと富田準二さんにお話をうかがってきました。(編集部)
秋元 まず、gooラボがどんな団体で、どんな活動をされているのかをお話しいただけますか。
gooラボ gooラボというのは、NTTレゾナントの中に作られた仮想的な集まりです。その目的は「次世代のgoo」に必要なサービスや技術を研究・開発することなんです。
秋元 仮想的な集まり、というのは?
gooラボ gooラボという部署があるわけでも、その専任の社員がいるわけでもない、ということです。
秋元 その仮想の組織のメンバーは、NTTレゾナントの社員ではあるんですよね?
gooラボ そうでもないですね。NTT研究所からも大勢関わっていますし、共同研究をしている大学の研究室や、協力会社の人たちもgooラボに含まれます。誰がgooラボのメンバーで、誰がメンバーではない、というのは言えないのです。
(編注:NTT研究所とは、NTTの研究開発部門の総称。サイバーコミュニケーション総合研究所、情報流通基盤総合研究所、先端技術総合研究所の3組織からなり、gooラボにはサイバーコミュニケーション総合研究所が主に関わっている)
秋元 gooラボの本拠地はNTTレゾナントが入居している大手町ビルヂングだと考えてもいいのでしょうか?
gooラボ そうですね。
秋元 NTT研究所との交流は活発なのですか?
gooラボ 実際にgooラボのサービス一覧を見ていただくと、半分ほどは右側に「ナビプロ」というマークがついていると思います。このマークがついている実験サービスは、NTT研究所との共同研究となっています。
NTT研究所の研究範囲は音声認識や光ファイバーなど幅広いのですが、その中から、Web系や日本語処理系の成果をネットビジネスに持ってきて応用する、というのがgooラボの目的の1つです。
元々はgooラボのすべてがNTT研究所との共同研究だったのですが、その後、大学の研究室との共同研究や、NTTレゾナントの中で開発されたサービスも増えてきて、今は半々ぐらいになっています。
秋元 gooラボの開設はいつなのでしょう?
gooラボ 「gooラボを始めます」という発表をして始まったわけではなく、実験を開始するので、それにあわせてgooラボという名前をつけた、という感じになります。
2003年10月にInfoLeadという実験サービスを開始し、それを展開していく母体としてgooラボが立ち上がりました。
InfoLeadは、3D表示のできるブラウザアプリケーションを提供するという実験サービスです。3Dモデルでできた商店街の中を歩いて買い物ができるようなものを考えていました。(2003年10月7日の記事参照)
秋元 今流行の「Second Life」みたいですね。
gooラボ そうですね。当時はパソコンもネットワークの帯域も十分ではなく、時代を先取りしすぎたのかもしれません。
秋元 サービスのリリース間隔はかなり短いですね。毎月のように出ているようです。また、やめるものはスパっとやめているようにも見えます。
gooラボ それは、まさにラボという形だから取れる利点です。中には、形を変えてほかのサービスとして生まれ変わっているものもあります。例えば「gooニュース」で関連ニュースを表示するところに、関連検索の技術が利用されたり、というのが形を変えた適用の実例です。
秋元 最近のサービスだと「オピニオンReader for 映画」というのがありますね。大量のブログから流行している映画のタイトルや、特定のキーワードに関連した映画を抽出する、というところはまさに研究所的な日本語処理ですね。これは、映画以外にもいろいろな応用ができそうに思いますけど、どうなのでしょう?
gooラボ そうですね、映画以外のいろいろな分野に使えそうです。今のところ一番うまく結果が出るのが映画なので、まず映画を対象にしたものを出しています。
秋元 富田さんは、どのようにして現在のgooラボに参加されるようになったのでしょうか?
gooラボ 私が学校を出て就職したのは分割される前のNTTです。NTT研究所から、米国の大学での客員研究を経て、半年前からgooラボに参加しています。
秋元 この連載では、読者の方で興味を持たれた人に対して、そのラボに参加するにはどうしたらいいか、というのも伝えたいと思っているのですが、ずばり「gooラボに入りたい!」という人はどうすればいいのでしょう?
gooラボ 難しい質問ですね(笑)。gooラボという独立組織があるわけではないので、これをやれば参加できます、というはっきりした手段があるわけではないのです。NTTレゾナントに入っても「gooラボに入れる」とお約束することはできません。
むしろ、gooラボとのコラボレーションをしているところに関わる形を考えていただければと思います。gooラボの活動は、いろいろな大学の研究室や、ベンチャー企業と共同でやっています。
秋元 たとえば学生の場合、日本語検索を研究している研究室を目指し、そこからgooラボとの共同研究を模索する、という形になりますか?
gooラボ そうですね。そういうのもあると思います。
秋元 利用者の立場からはどうですか?
gooラボ スタッフブログにコメントをいただいたり、ユーザフィードバックフォームから、gooラボのサービスに対して色々とフィードバックを寄せていただければ、「そこから一緒にやりましょう」ということもあるかもしれません。
秋元 そのような問い合わせが殺到しても問題はないのですか?
gooラボ はい。そういったフィードバックをより多く受けるための存在がgooラボだと考えています。
gooラボを始めて一番大きかったのは、ユーザーからのフィードバックが増えたことです。gooラボ経由でNTT研究所にもたくさんのフィードバックが流れていますが、このフィードバックがとても貴重だと考えています。
秋元 富田さんの場合、1日の活動はどのような感じでしょうか。
gooラボ(富田さん) 朝出社したらまずメールをチェック、そのあと、各方面と調整や指示をしているとあっという間にお昼となります。
秋元 お昼は大手町だと食べる場所に困ることはなさそうですね。
gooラボ 大手町ビルヂング地下にもいろいろお店がありますし、お昼ご飯はなるべく人と一緒に食べて、コミュニケーションを取る時間にしています。忙しいときにはお弁当で済ませることもあります。
今は大学からの実習生を受け入れていて、実習生の指導もしています。gooラボのサービスの中には、過去の実習生が作ったものもあるんですよ。
秋元 コミュニケーションやコラボレーションの時間が多いのでしょうか?
gooラボ(富田さん) 我々はエンジニアですが、企画系やサービスの人たちとの打ち合わせも多いですね。私はプログラミングもしますがプロジェクトの全体を見るような役割もあるので、両方です。中には開発が中心という人もいますよ。
社内のいろいろな部署から相談や質問が入ってきますし、逆に分からないことを簡単に聞きに行くこともできて、gooチームの中で協力しています。
時間 | 行動 |
---|---|
9:30 | 出社 |
9:30〜9:45 | メールチェック (返信の優先順位確定) |
9:45〜10:30 | 開発関連の作業指示 |
10:30〜11:30 | 研究所と電話打ち合わせ |
11:30〜12:00 | 実習生と打ち合わせ |
12:00〜13:00 | 昼休み |
13:00〜14:00 | 資料作成修正、開発関連指示 |
14:00〜15:30 | ユーザビリティに関する打ち合わせ |
15:30〜17:00 | プログラミング |
17:00〜19:00 | 社内発表会 |
19:00〜21:00 | 作業指示、退社 |
対談の初回ということで、「どこのラボでもこれを聞こう」と基本データ的な質問項目を揃えていったのですが、gooラボは思った以上に不定形の組織でした。
「NTT研究所という立派な研究所がすでにある状態から、その成果をユーザーに提供するため、よりユーザーの声を聞くためにgooラボが作られた」という話は、サイボウズ・ラボのような「ベンチャー企業が短期的な目標とは別に中長期的な研究をするために作った」ラボとはまったく正反対の方向性で、その違いに面白さを感じました。
インタビューの途中で何度も、もっとユーザーのみなさんとやりとりしたい、フィードバックが欲しい、という話になったところに、ユーザーに近づくためのラボ、という性格が強く現れていたように思います。日頃gooやgooラボのサービスを使っているみなさんも、こんな新機能がほしい、こうしてほしい、といった要望を安心してどんどんぶつけてみてはいかがでしょうか。
2002年、サイボウズの米国子会社Cybozu Corporation入社。2005年に帰国し、サイボウズの研究開発子会社サイボウズ・ラボの立ち上げに参加。現在はサイボウズ・ラボにて、主に海外ネットサービスのリサーチを担当。社員ブログ「秋元@サイボウズラボ・プログラマー・ブログ」の運営者として「アルファブロガー2006」に選ばれる。著書に「PHP×WebサービスAPIコネクションズ」など。Webサイトマーケティングの技術面に関するコラムなども執筆している。英国・米国・ベトナムでの開発経験を持つトラベリング・エンジニア。
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