ホワイトカラーの「カイゼン」とは──『デジタル・ワークスタイル』5分で読むビジネス書

ホワイトカラーの「カイゼン」が求められている今、本書は21世紀のワークスタイルを示した。ビジネスパーソンによるビジネスパーソンのための仕事術だけでなく、応援歌でもある。

» 2007年05月28日 16時54分 公開
[保田隆明,ITmedia]
表紙

徳力基彦デジタル・ワークスタイル―小さなことから革命を起こす仕事術(二見書房)

 これからは「Small is the New Big」、小さなことがすばらしい時代なのだ。自分が今、どんな会社に勤めていようと気にすることはない。あなたの会社で、その「小さなこと」を実行できるのは、あなた自身なのだから。動きの鈍い会社に不満をいっている暇があったら、あなた自身がまず小さく行動することから始めてみよう。(p.28)


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 本書は、ビジネスパーソンによるビジネスパーソンのための仕事術、そして応援歌である。

 世の中にはたくさんの仕事術の本があるが、現役ビジネスパーソンが著者というケースはそれほど多くない。多くは著名人や会社の社長など、すでに「上がった」人による本、もしくはコンサルタントなど、その本の内容がそのまま自身のビジネスの種となる職種の人による著書である。そんな中、著者である徳力氏は30代半ばの“立派”な普通ビジネスパーソンである。著者の目線は自ずとわれわれ一般の読者と合致し、他の仕事術本より圧倒的に実感の伴ったものになっている。

 ホワイトカラーの仕事のほとんどは、PCでの資料作成、インターネットからの情報収集と情報分析、そしてメールによるコミュニケーションで時間が占められている。本書の内容は、それらのタスクをより効率的に短時間でこなすためのツールと考え方を紹介してくれている。ポイントは、彼があとがきで書いているように「本質はどのツールを使うかということでは」なく、「インターネット時代に要求される仕事のやり方をまとめた」ものである。

 「カイゼン」に代表されるような、1つの製品を作るのに1分1秒の短縮に命をかけてきた日本メーカーの製造現場といえば、高い生産性と効率性をあらわす代名詞でもある。それに比べるとホワイトカラーの現場では、生産性や効率性を上げるためのカイゼン術が乏しい。それゆえにただむやみやたらと皆が「忙しい」「仕事が山盛りだ」と嘆いている状況になっている。本書は個人の読者に向けた仕事術の書籍ではあるが、突き詰めれば日本企業のホワイトカラーの生産性を「カイゼン」することも可能なノウハウが詰まっているといえよう。むしろそれが著者の望むことではないかとさえ思われる。

BOOK DATA
タイトル: デジタル・ワークスタイル―小さなことから革命を起こす仕事術
著者: 徳力基彦
出版元: 二見書房
価格: 1500円
読書環境: △書斎でじっくり
×カフェでまったり
◎通勤でさらっと
こんな人にお勧め: ホワイトカラーの人。特に日々の情報収集や新たな発想でお悩みの方、大企業で自分は仕事がデキると思っているビジネスパーソンの方

 現代の我々は、自分の仕事がインターネットや海外の安い労働力によって置き換えられる日が来るかもしれないというリスクに直面している。そのリスクに対しての対応法としては、旧態依然とした仕事のやり方を変える必要があるというのが本書の1つのメッセージだ。

 しかし、そういう悲観的理由によるものではなく、むしろ「20世紀は国家や企業の時代だったが、21世紀は個人の時代だ」からこそ、インターネット時代の仕事術を導入し、仕事の生産性、効率性を高めて時間を作り出すことで、これからのワークスタイルを切り開くことが可能だというのが本書のメッセージであろう。著者が挙げている例としては、多くの情報、人に触れ、自分の考えをブログを通じて整理するというプロセスである。

 本書を、ベンチャー企業勤務の社員が書いた本、もしくは有名ブロガーが書いた本として捉えるのは間違いである。これは、NTTという“日本株式会社”の代表的な企業に一度は属し、その後ベンチャーに転職して大企業を客観視できるからこそ書ける内容である。少し大げさではあるが、「みんなで一緒に効率的な仕事環境を作り出し、より価値の高いアウトプットをしていこうよ」という著者から同年代の人達に対するメッセージと受け取ることもできる。

 デジタル・ワークスタイルというタイトルではあるが、デジタルはあくまでツールであり、21世紀のワークスタイルの世界観が示されていることが本書の最も価値ある点だと思われる。

筆者:保田隆明 リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)、『M&A時代 企業価値のホントの考え方』(共著:ダイヤモンド社)、『なぜ株式投資はもうからないのか』(ソフトバンク新書)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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