第6回 「あなたメッセージ」よりも「わたしメッセージ」良いコミュニケーションを取るために

スムーズなコミュニケーションを取るためには、言葉の使い方も重要です。それは、単に丁寧な言い方をすればいいというものではありません。

» 2007年06月27日 20時34分 公開
[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]

 「あなたメッセージ」よりも「わたしメッセージ」──。第5回はスムーズなコミュニケーションのための、言葉や言い方を紹介します。

「マンド」と「タクト」

平本メソッド 良いコミュニケーション
  連載タイトル
  第1回 “やる気”って一体なんだ?
  第2回 コミュニケーションがスムーズなとき
  第3回 スムーズなコミュニケーションのポイント(3〜5)
  第4回 コミュニケーションの5つのチェックポイント(前)
  第5回 コミュニケーションの5つのチェックポイント(後編)
  第6回 「あなたメッセージ」よりも「わたしメッセージ」
  第7回 「事実」よりも「意見」を言う

 まず最初に「マンド」と「タクト」を説明しましょう。心理学者によると、人間の言語は大きく、マンドという部類とタクトという部類に分かれます。

 タクトは、ものに名前を付けて説明するものです。例えば「これはお茶です」「ソファです」「今は日差しが入ってきています」「時計です」「これはグーグルです」といったものは、名前を付けて説明している言葉です。

 一方マンドは、自分と相手の要求を調整するものです。何かをお願いしたり、頼んだり、断ったりする言葉です。「そこの赤いクッションを持って立って下さい」「5万円貸してくれませんか」「キミ、今日は30件取るまで帰らないでね」「売上を今月は倍にしてください」というような言葉がマンドです。また、マンドには大きくはお願いするものと断るものがあります。「課長、僕、これだけ数字を上げたので、給料を何%かアップしてください」「ダメ。アップは無理」というのもマンドです。

 世の中でタクトではトラブルは滅多に起きません。「これはグーグルです」という言葉に、「なんだよ、ばかやろう!」って怒り出したりはしませんね。グーグルはグーグルというだけのことです。ところが「このグーグルで、これだけの売り上げを上げてください」と言った瞬間、「えーっ!」「きついよ」と思ったり、腹が立ったり悲しんだり、ショックを受けたりします。「クッションを持って立って下さい」といわれたら「いいよ」と答えるかもしれませんが、「5万円貸してください」といわれたら、そこに抵抗が生まれます。つまり、マンドはトラブルの元になるのです。

 ですから、マンドの言い方に気をつけないといけない、ということになります。

アサーティブな言い方を心がける

 ものを頼んだり断ったりする場合に、相手を傷つける言い方と傷つけない言い方があります。また、要求をはっきり言う言い方とはっきり言わない言い方があります。

  相手を傷つけない 相手を傷つける
要求を伝えない 非主張的 復讐的
要求を伝える アサーティブ 攻撃的

 例えば部下に「給料を上げてください」といわれて、断らないといけない場合、「ダメ、上げられない」というのは、はっきり伝える言い方で、「う〜ん……まあ、まあ……ちょっと難しいかもしれないけど、どうかなぁ……」だと、はっきり伝えない遠回しな言い方です。また、「君のがんばりは分かるんだけど、会社がかくかくしかじかで、どうしても無理なんだよ。悪いなあ、がんばっているのに」が、相手を傷つけない言い方で、「バカいってるんじゃないよ、隣のやつはもっといい成績なんだよ、お前、それで給料を上げてもらうと思っているのかよ」というように傷つける言い方もあります。

 たいていの日本人は、相手を傷つけないために要求をはっきり言わない言い方(非主張的)をします。非主張的な言い方で相手によく伝わらないとなると、本当は傷つけないようにはっきり言わなかったのに、結果的に要求ははっきり言わないまま傷つけてしまうことになります。嫌味っぽくなるわけですね(復讐的)。それでも伝わらない場合は、傷つけてでもはっきり言います(攻撃的)。

 例えば、期限を守らないことがある部下に対して、非主張的な上司は、「田中君、あのさ……えーっと、うーん……まあ、いいか……」という風にはっきり言いません。部下に対してはこういう上司はあまりいないかもしれませんが、お客さんに対してはよくあります。また、部下が上司に対して言う場合もよくあります。

部下 「課長、ちょっと僕……」

上司 「何だ?」

部下 「いえ、まあ……」

上司 「何なんだ?」

部下 「いえ……やっぱりいいです」


 あるいは、お客さんと話をする場合など、自分より立場が上の人になればなるほど、言い方は非主張的になります。

 復讐的な言い方は嫌味っぽくなります。遠まわしで、はっきり言いません。期限を守らない部下に対して、復習的な上司だと、「田中君は飲みに行く暇はあるのにね」というように、口調は柔らかなんですが、嫌味っぽくなります。間接的に期限を守るように言っていて、これは相手を傷つけないために遠回しに言っていますが、結果的には傷つけています。

 攻撃的な言い方は、相手を傷つけてもいいからはっきり言う言い方です。攻撃的な上司だと、期限を守らない部下に対して、「とにかくさ、お前はロクに仕事ができないんだから、期限くらい守れよ!」みたいな感じではっきり言います。

 これらに対して、アサーティブな言い方とは、相手の立場に立って話もちゃんと聞いて、要求を伝える言い方です。アサーティブな上司だと、「田中君、最近いい仕事をしているね。いい仕事をするには時間がかかると思うんだけど、期限を守ってもらえると助かるんだ」という感じです。これだと相手は比較的受け入れやすくなります。

 スムーズなコミュニケーションのために、アサーティブな言い方を心がけましょう。アサーティブな言い方の特徴は、冷静で分かりやすく、はっきりしているということです。分かりやすくはっきりでも、冷静じゃなければ攻撃的な言い方になってしまいます。また、分かりにくいと冷静でも復讐的な言い方になります。それだと嫌味っぽくなりますので気をつけてください。

「あなたメッセージ」よりも「わたしメッセージ」で

 スムーズなコミュニケーションのためには、「あなたメッセージ」ではなく「わたしメッセージ」で言いましょう。あなたメッセージとは“あなた”を主語にする言い方で、わたしメッセージは“わたし”を主語にする言い方です。日本語の場合は“あなた”や“わたし”という主語を使わない場合が多いので、主語を付けるとしたら──と考えてください。

 往々にして、あなたメッセージでは良いコミュニケーションが取れません。例えば、研修で二人部屋になったとしましょう。同室の相手はタバコを吸う人で、あなたはタバコが苦手です。「部屋でタバコを吸わないでほしい」という内容をあなたメッセージを使って伝えると、こんな感じになります。「Aさん、タバコは身体に悪いよ。止めたほうがいいって。オレ、あなたのために言うけどさ、やめたほうがいいよ、Aさん。特にこういう場所では、タバコなんて吸わないほうがいいんじゃないの」

 これは優しく、分かりやすく、はっきり言っています。でも、どんな感じがするでしょうか。押し付けられている感じですね。あなたメッセージは、「あなたはこうした方がいい」というメッセージなので、嫌な感じがするのです。

 同じ内容で、わたしメッセージだとこうなります。「Aさん、僕、タバコの煙にむせるときがあって、ちょっと苦手なんですよ。もし可能だったら、外で吸ってもらえると、僕、すごく助かるんだけど」と言われたらどうでしょうか。部屋では止めようという気になりますよね。

 メッセージの内容は「タバコを止めろ」と同じなのですが、「あなたは(止めた方がいい)」という言い方をすると受け入れがたくなります。「わたしは(止めてほしい)」という言い方をすると受け入れやすくなります。

 次回は、さらにスムーズなコミュニケーションのためには、何を気をつけたらいいかを解説します。

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本相武(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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