仕事に取りかかるハードルを跳び越えるには?【解決編】シゴトハック研究所

仕事に取りかかるまでに時間がかかる理由の1つが、「高すぎる理想」です。これを回避するため、“責任感の薄い”他人を活用する方法を紹介します。

» 2007年10月19日 13時40分 公開
[大橋悦夫,ITmedia]

今回の課題

 仕事に取りかかるハードルを跳び越えるには?

 コツ:スターターにスクラッチをつけてもらう


 仕事は取りかかるのが難しい、とはよくいわれることです。例えば、クライアント向けのプレゼンに備えて、PowerPointで資料を作るような場合に、いったん取りかかることさえできれば、1時間でも2時間でも没頭できるはずなのに、取りかかるまでに3日もかかってしまう──などという話を聞いたことがあるかもしれません。あるいは自分で身をもって体験済み、という方もいるでしょう。

 この取りかかりのハードルは、どうすれば跳び越えることができるでしょうか?

理想を追いすぎると取りかかれない

 厳密には仕事ではありませんが、「引っ越し」というのは典型的な「取りかかれない仕事」の1つでしょう。引っ越しに取りかかるためには、まず荷造りを始めればいいのですが、いざその荷造りを始めようとすると、その瞬間に複数のタスクが同時に押し寄せてくるからです。例えば、次のようなタスクです。

  • いらない物を捨てる
  • 当面使わない物と引っ越し直前まで使う物とを選り分ける
  • 契約しているさまざまなサービスの住所変更をする

 「いらない物」と簡単に書きましたが、いるかどうかの判断は実に悩ましい問題です。だからこそ、なかなか捨てられずに残っている物があるわけです。それが、引っ越しをすることになると、今までは「とりあえず取っておこう」という先送りが許されてきたのが、もはや先送りの余地がなくなり、捨てるかどうかの判断を迫られることになります。

 筆者自身、引っ越しのたびにこれと同じような悩みを抱いたものですが、最近の引っ越しでこの悩みから解放されました。学生時代に引っ越しのアルバイトをしていた友人に手伝ってもらったからです。彼は筆者の「悩み」を一笑に付し、部屋中にある物を手際よく段ボールに詰め込んでいきます。といっても特別な荷造り術を知っていたわけではなく、ただ単に片端から放り込んでいっただけのことです。

 筆者はそれを見て、大変な早さで荷造りが進むのを喜ばしくは感じたものの、大切な物からゴミ同然の物まで、分別されずに詰め込まれていくのが残念でもありました。しかし、最終的には彼のやり方が正しかったと考えています。筆者が1日かけて終わらないような荷造りを、2時間かけずに終わらせてしまったからです。

 ここに、仕事に取りかかる上での重要なカギがあります。

 私たちは、そんなつもりがない場合でもやはり、仕事に対して理想を持ちすぎる傾向があります。もちろん、仕事のクオリティは高い方がいいに決まっていますが、それはあくまでも、約束の期限に間に合うという条件を満たす限りの話です。

 特に、取りかかりの段階では、あまりにも先のことを気にしすぎたり、完全な青写真が描き終わるまで取りかからないでいるのでは、いつまでたっても仕事が進みません。そうこうしているうちに、その仕事に使える時間が足りなくなり、最終的には“やっつけ仕事”に追い込まれ、かえってクオリティを落としてしまうことになりかねません。

責任感の薄い「スターター」を見つける

 とはいえ、自分の仕事ですから、知らず知らずのうちに理想を追ってしまうことは、ある程度はやむを得ないところです。よほどのことがない限り、誰しも最初は“やっつけ仕事”ではなく“きっちり仕事”を目指すはずだからです。

 そこで、取りかかりだけ他人に手伝ってもらう、という方法があります。企画書やプレゼン資料を作る仕事を抱えているなら、出だしのところだけを一緒に考えてもらうようにするのです。

 引っ越しの例からも分かるとおり、他人にとっては自分の物の何が大事で何がいらないのかなど分かりませんから、感情的に躊躇せずどんどん仕事を進められます。いい意味で責任感が薄いからです。これは決して引っ越しに限った話ではないでしょう。

 でも、いったん仕事が走り出してしまえば、その後は勢いがついて自分一人でも走り続けることができるはずです。その意味で、最初に手伝ってくれる他人は「スターター」(スタートさせる人)だといえます。

 さらに、スターターのやり方は、自分の考え方とは異なっていることが少なくないため、思わず口を出したくなるものですが、実はそれこそが、仕事を進めるモチベーションになるのです。

 引っ越しの荷造りを手伝ってもらう際にも、次のような文句をよく耳にするはずです。

  • 「それはもう捨ててもいいや」
  • 「おいおい、もうちょっと丁寧に扱ってくれよ」

 人に関わってもらえば、大なり小なりこのような“摩擦”は必ず起こります。これによって、感情が刺激されれば、いつの間にかやる気が生まれ、気づいたら仕事に取りかかっているわけです。

 プレゼン資料の出だしだけを一緒に考えてもらう場合なら、次のようなやり取りが考えられます。

  • 「こういう切り出し方はどうだろう?」
  • 「うーん、それだったらこういう方がインパクトがあるかな」

 一人で何もないところから考えるのではなく、他人に取っ掛かりとしてのスクラッチ(ひっかき傷)をつけてもらい、これを文字通りの足がかりにして仕事を前に進めていくわけです。「ひっかき傷」といっても、それは健全な痛みといえるでしょう。

 もちろん、人に手伝ってもらってばかりもいられませんから、代わりにこちらからも、相手が取りかかりに苦労している仕事について、同じように手伝ってあげることも必要です。でも、それはさほど苦しまずにできるはずです。すでに述べたように「他人」の仕事を出だしだけ手伝うのは難しくないからです。

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筆者:大橋悦夫

1974年、東京生まれ。ブログ「シゴタノ!仕事を楽しくする研究日誌」主宰。学生時代よりビジネス書を読みあさり、システム手帳の使い方やスケジュール管理の方法、情報整理のノウハウなどの仕事術を実践を通して研究。その後、ソフトウェアエンジニア、テクニカルライター、専門学校講師などを経て、現在は仕事のスピードアップ・効率アップのためのセミナーや研修を手がける。デジタリハリウッド講師。著書に『「手帳ブログ」のススメ』(翔泳社)『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『チームハックス 仕事のパフォーマンスを3倍に上げる技術』『そろそろ本気で継続力をモノにする!』、近著に『Life Hacks PRESS vol.2』『LIVE HACKS! 今を大切にして成果を5倍にする「時間畑の法則」』がある。


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