ペーパーレス化導入の第一歩は紙レベルでのルールの確立オフィス文書削減講座

ペーパーレス化への第一歩は、何よりも、これまで保有してきた紙ベースでの管理ルール(ファイリングシステム)を確立することにほかならない。真に必要な文書を保有するということは、不要な書類を持たないということ。急がば回れ。まず足元のルールを固めることが先決だ。

» 2007年11月30日 13時40分 公開
[SOS総務]
SOS総務

 企業が組織として管理しなければならないものが「人・モノ・カネ・情報」だが、企業が管理すべき経営資源である「情報」を、コンピュータシステムとそこに蓄積された電子データに限定して語られることがよくある。しかし、最も管理を必要とされていながら、事実上放置されていることが多いのは、形式知として眼前に存在している膨大な書類群なのだ。

経営トップと総務部門にしかできない社内推進組織作りからスタート

 ファイリングシステムを実践する以上、経営トップがその趣旨を理解するとともに、総務部門がリーダーシップをとり、各部門にシステム推進担当者を配置するなど、全社的な推進組織が必要である。「文書管理委員会」などの名称で置かれるのが一般的だが、経営トップを巻き込むことで全社員に文書管理の適正化が経営課題であることを認識させたい。この旗振り役は総務部門単独よりも、できればシステム部門の協力を得るとよいだろう。

 また、文書管理委員会は、必要に応じてセキュリティ委員会などと兼務させるのも有効だ。セキュリティ・ポリシーの策定には社内の委員会設置が不可欠なため、ドキュメント整備を担当する社員にセキュリティ対策も兼ねてもらうことは、情報管理面から見ても一石二鳥である。この組織作りこそ、経営トップや総務部門しか担えない重要な役割であることを忘れてはならない。

システムの成否は、不要文書をどれだけ大胆に捨てたかで決まる

 実施にあたっては、なぜファイリングシステムの整備が必要なのかについて、社員全員に納得してもらう理由が必要である。最近は、「法令順守のため」「企業秘密の徹底化をはかるため」「ISOに対応するため」「将来のペーパーレス化をスムーズに進めるため」などが、その必要理由としてよく挙げられるようだ。キーワードとしては、「コンプライアンス」「セキュリティ」「IT化」ということになるが、どれもこれからの企業経営には欠かせないものであることはいうまでもない。

 こうした経営目的に加え、「ムダな書類が廃棄され、必要な書類がすぐに取り出せるようになる」「オフィスが整然として働きやすくなる」などの具体的な効果を示すのも大切なポイントとなる。なぜなら、実際にファイリングシステムを作り上げていくのは、各部門の社員だからだ。彼らが身近に感じられる効果を具体的に示すことによって、彼らに行動を促すのだ。

 ただし、整理整頓はあくまで副次的な話で、ファイリングシステムの真の目的は「組織として必要な書類を必要な期間だけ、即座に検索可能な状態で保有すること」であることを常に意識してもらわなければならない。要するに、組織を挙げて文書のライフサイクル管理を徹底するということだ。

 図1のように、すべての情報は発生から廃棄までのプロセスをたどることになる。いわば、情報の“揺りかごから墓場まで”といったところだろうか。これを組織的に管理するのが「ファイリングシステム」である。

 目的が明確になり、共有化され、システムの概念が固まったら、システム構築作業の開始となる。推進組織の編成から、システムの完成、維持管理方策策定までは図2に示した通りだ。実際にファイリングシステムの構築支援に携わっていると、この過程で最も重要なプロセスが「不要文書の廃棄」であることを強く感じることだろう。ここで思い切った廃棄作業を行い、部門として真に必要な文書を厳選して残せば、それ以降の作業が極めてスムーズに進む。まさに“選択と集中”である。ファイリングシステム構築の成否は、8割近くがこのステップに懸かっているといっても過言ではないだろう。

 しかし、人間は思い入れや未練などがあって、なかなか捨てられないというのも事実。どんなに思い切ったように見えても、残すか廃棄するか、迷うものがどうしても生じるだろう。そういう場合、「迷い箱」を用意し、取りあえずその中に溜めておき、3カ月など期限を決め、その間に全く見なかったら廃棄してしまうといった工夫をしている企業もある。「残す」と「捨てる」の中間地帯を設けることで、社員の抵抗を和らげるとともに、作業を進めやすくする効果があるのだ。

導入より維持管理に失敗する企業の方が圧倒的に多い

 組織を挙げて一通りファイリングシステムを整えても、それだけでは決して安心できない。半年も経たずに崩壊してしまうケースは珍しくないのだ。ファイリングシステムは「導入は簡単だが維持管理は至難の業」と思っていただくといいだろう。これを克服するため、導入時と同様かそれ以上に、経営トップを巻き込んだ総務部門の粘り強い対応が求められる。

 またシステムが完成したからといって、先の「文書管理委員会」を解散させてはいけない。彼らが本領を発揮するのはむしろここからなのだ。それぞれが職場の問題を出し合い、みんなで改善策を検討する。また、年間スケジュールを決めて、定期的に各部門を巡回し、維持管理の状況チェックを行ったり、現場からの相談にのったり悩みを聞いたりなどといった、小まめな対応が必要となる。こうして紙レベルのファイリングシステムが定着してくると、次のステップである「ペーパーレス化」への道が自然と開けていく。まずは紙レベルでのルール作りからはじめよう。

『月刊総務』2006年7月号 総務のマニュアルより

執筆:社団法人日本経営協会 ファイリングデザイナー
検定事務局選任課長 石島正勝


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