第2回 プレイヤーとマネージャーの違い今さら聞けないマネジメント&コーチングの基本(3/5 ページ)

» 2008年03月19日 14時00分 公開

 例えば、部下とAとBの2つの案件で打ち合わせをしている場面。部下はBをやりたいと思っている。でも、上司はAをやらせたいとします。このとき、上記のプレイヤーと同じような方法で部下を説得しようとすると、上司は、「2つ方法があると思うけれど、過去にBで失敗したときはどんなとき?」「現在、Bでうまくいかないのはどんなとき?」「Bの方法でやって考えられるリスクは何?」と聞いて部下に言わせます。次に「ところで、Aと似たようなケースで過去にうまくいったのはどういうとき?」「Aの現時点での利点は?」「Aの将来考えられる可能性や期待は何?」と聞いて部下に答えさせます。

 最後に「ところで、キミはどっちを選ぶ?」と聞くと、心の中でBをやりたいと決めていた部下はどう思うでしょうか。たぶんAだと答えるでしょうが、言わされたように感じるでしょう。嫌々Aを選ばなくてはいけない感じです。さらに、上司がうまくコーチングできたと思って上機嫌で「そうだろう。じゃあ、Aでやろうか! やりたいことをできるんだから、やる気も出るよね」などと言ったらどうでしょう。部下は言いくるめられたような気がするに違いありません。

 プレイヤーに必要なスキルと、マネージャーに必要なスキルは全然違うのです。プレイヤーは自社の製品を選んでもらわなくてはいけないので、お客さんを説得しなくてはいけませんが、部下の場合にこれをやってしまうと、一見、良いコーチングをしているようで、部下は言いくるめられたような気がします。そして、やる気も出てこない。これはコーチングではありません。では、どうするべきでしょうか。それには両方の案件に対して、ニュートラルに質問することです。

結果を出せるマネージャーの「引き出すスキル」

 Aで過去にうまくいったこと、うまくいかなかったこと、同様に現在のメリットとデメリット、未来の考えられる可能性とリスクというように、過去・現在・未来に関して、それぞれポジティブな部分とネガティブな部分を聞いていきます。同じように、Bの過去のメリットとデメリット、現在のメリットとデメリット、未来の考えられる可能性とリスク、というように、完全にニュートラルに聞きます。整理されたら、「じゃあ、どっちをやりたい?」と聞きます。すると部下は、自分の中で依然として答えが変わっていなければ、「Bをやりたい」と答えるでしょう。

 そうすると、上司としては、「違うだろ!」と言いたくなるんですね。「オレの答えが正しくて、お前の答えは間違っているよ」という姿勢があるからです。でも、この気持ちは脇に置いておいて、純粋に相手の中に答えがあるという前提でやってください。

 それからどうするか。「じゃあ、Bをやりなさい」で終わってはいけません。「なるほど、Bをやるんだな。じゃあ、まずこの1週間、どんなふうにやる?」と聞いていきます。すると部下は「これをこんなふうにして1週間やってみます」と答えますね。「違うだろ」と思っていても、それを脇に置いて「なるほど。じゃあ来週、どうなっているか途中経過を教えてくれ」と言ってやらせてみてください。

 1週間がたちました。「どうだ?」と聞いてみましょう。「なかなかうまくいかなくて……やっぱりAのほうがいいような気がします」と、部下本人から言ってきたとしたら、「だろう? オレもそう思ったんだよ」とは言わずに、「なるほど。どういう点でBよりもAのほうがいいと思う?」と聞いて、BからAに移行するためのコーチングをしていきます。

 このやり方では1週間、無駄になりますね。ここが、コーチングは時間がかかるマネジメント方法で、なかなか成果が上がらないといわれるところです。ところが、こういう対話をしていくと、部下自身の中に自分で考える能力がだんだん培われてきます。何カ月かこういうことをしているうちに、質問をされなくても、自分なりに過去・現在・未来のメリットとデメリットを全部洗い出し、どちらがいいかを考える思考様式が育ってきます。そうなったら、放っておいても自分で結果を出せるようになります。そして、本当に必要なときだけ、自分から上司に質問してくるようになります。

 ところで、部下が1週間で気付いてくれるならいいほうです。1週間たってうまくいかなくても、「なかなかうまくいかないけれど、もっとがんばってみたいです!」と言い出す部下もいます。上司としては、「ちょっと待てよ!」と言いたくなりますが、それでも続けさせてほしい。「なるほど、どこがマズイと思う?」「どこを改善したらいいと思う?」と聞いてあげてください。部下は「じゃあ、もうちょっとここを直して、こんなふうにやってみようと思います」と答えるでしょう。そこで「違うだろ!」と思わずに、それが本人にとって大事なことなんだと考えて、やらせてください。もう1週間たちました。「やっぱりダメでした……」という部下に、「ほらみろ!」とは言わずに、どこがダメで、これからどうするか。Aにするなら、どうやって移行するか、ということを冷静にコーチングします。

 こうすると2週間が無駄なようですが、部下は自分で試行錯誤しながら、2週間で非常に多くのことを学ぶはずです。あるいは、2週間たったら、うまくいっているかもしれません。これは上司の発想を超えたアイデアが部下から出てきたということです。4週間後にすごいアイデアが出てくる可能性もないとはいえません。もちろん、「4週間やってもダメでした」となって、Aにすると言ってくることもあります。その場合も、4週間遠回りにはなりましたが、部下はたくさんのことを学んでいるはずです。上司が半年間、口をすっぱくして言っても分からなかったことも、数週間で身にしみて学んでいます。たとえ4週間かかったとしても、何度も言い聞かせるより結果的には効率的だったという場合が多いのです。

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