第5回 4種類の単純なシナリオパターンを応用しよう新入社員がやってくる──専門知識を教える技術(2/5 ページ)

» 2008年03月25日 15時00分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]

パターンその1:「到達劇」

 「シナリオ」というのはつまりドラマの脚本、筋書きのことですから、普通はなかなか作る機会はないはずです。「いったいどうやって作ればいいの?」と思われるかもしれませんが、娯楽系ドラマのシナリオと違って、「教える」ためのシナリオにはそれほど高度な技術や熟練は必要ありません。ごく限られたパターンを応用するだけで、だいたいの対応ができてしまいます。

 その1つが例えば「到達劇」パターンです。これは何かの「目標」に少しずつ近づいていって最後にそこにたどりつく、というものであり、スポーツ系のドラマによく見られますね。このシナリオを使った「アクション」の段階では、「少しずつ近づく」という努力の過程が実際近づいているように表現すること、そして「達成」の瞬間を大げさに明確に表現することがポイントです。

 簡単な例で説明しましょう。「モノが燃えるのには空気中の酸素が必要である」という知識を小学生にでも教える場合を考えます。この時、教えるべき「知識」の構造としては、

  • モノが燃えるのには空気に含まれる何かが必要である
  • その「何か」が無くなると火は消える
  • 「何か」とは酸素のことである

 といったものになりますが、このうち「到達劇」パターンに使いやすいのは「火が消える」というイベントです。ハッキリした視覚的な変化があって、タイミングを特定できるイベントは到達劇パターンにしやすいわけです。具体的には例えばこんな実験をします。

  1. アルコールランプを1つと、そのランプ全体を覆って密閉できる透明な容器を用意する
  2. 火をつけて密閉してしまうとどうなる? という質問を生徒に振って、「火が消える」という答えを引き出す
  3. 火をつけて密閉し、待つ
  4. だんだん火が弱くなるのでそこで「おっ何だか火が小さくなってきた、小さくなってるよ!」と実況中継
  5. 消えた瞬間に「消えた! 消えたよ、消えちゃったね!!」と大騒ぎ

 4と5が「アクション」の段階ですが、到達劇シナリオを意識して、口調や表情、ジェスチャーによるアクションを大げさにするのがポイントです。単に「消える」という実験自体でも「到達劇」の効果はありますが、「先生」がそれをアクションで表現することでその効果が格段に強くなります。

 どうですか? 単純ですよね。娯楽系ドラマではないので、「教えるためのシナリオ」というのはこの程度の単純なもののほうがいいんです。複雑になると受講生がついてこられなくなりますので、単純なシナリオを組んで、それを思い切りよく演じましょう。恥ずかしがっていてはいけません。

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