先送りの反対が前倒し。しかし「今やらなくてもいいことをやっている」という意識が自分にブレーキをかけてしまうものです。うまく自分を欺いて、うまく前倒しする方法とは?
時間を未来に繰り越すには?
コツ:一部分を切り出して持ち歩き、スキマ時間に進める
この2つの共通点は、かかる時間を最適化しようとするアプローチであることです。仕事のパターンを見極めることで、力を入れるべきところとそうでないところとを明確に分け、エネルギーを浪費しないようにするわけです。
このことは、自転車のペダルをこぐときのことを想像してみると分かりやすいでしょう。走り始めは、力いっぱいこぐ必要がありますが、ある程度スピードが出てくればペダルは軽くなりますから、力を抜いても支障はありません。むしろ、スピードに任せてこがずにおく方が無駄なエネルギーを失わずにすみます。
とはいえ、ここで得られたスピードも放っておけばいつかはゼロに戻ってしまいます。せっかくスピードを出しても、そのスピードはその場限りのものであり、「明日のために取っておこう」といったことはできません。
仕事においても、一時的に作業のスピードや効率が上がったとしても、それをそのままの形で翌日に“繰り越す”ことはできないのです。
自転車の場合であれば、楽にペダルをこぐ方法を身につけたり、トレーニングを通して脚力をつけたりすることによって、スピードを上げるまでのエネルギーや時間を小さくすることはできるでしょう。
同様に、仕事においても「今うまくいっている仕事」があるのなら、これを次回以降にも再現できるようになるための工夫や努力の余地があるはずです。
当月に使い切れなかった携帯電話の「無料通話」を次月に繰り越すことができるのと同じように、仕事においても、今日使い切れなかった(=温存できた)時間を未来のために繰り越せれば、未来はもっと楽になるはずです。例えば「まだ余裕のあるうちに手を着けておけばよかった」という後悔を未然に防げるはずです。
そこで、今回は特に仕事にまつわる時間を未来に繰り越す方法について考えてみます。
前回のテーマであった「先送り」は、時間の借金(後払い)といえます。「借金」があるくらいですから、「貯金」もあるはずです。未来のために積み立てておくという意味合いですが、「前倒し」がこれに当たるでしょう。「先送り」とは全く逆のアプローチということになります。
とはいえ、時間そのものは増やしたり貯めておいたりといったことはできません。できるのは、時間を使って作り出した何かを未来に引き継ぐことだけです。
例えば、水はそのままでは持ち運べませんが、凍らせることによって手でつかんで運ぶことができるようになります。あるいは、レトルト食品や冷凍食品のように、本来であれば短時間のうちに劣化してしまう料理を、真空パックにしたり凍らせたりすることによって、寿命を延ばすことができます。
同様に、時間についても後から「戻して」使えるような加工を施すことによって、未来に繰り越すことができるわけです。
ポイントは、「前倒しをしている」という感覚を薄めることです。前倒しをしていると分かると途端に「今やらなくてもいいことをやっている」ということで、自分でブレーキをかけ始めてしまうからです。
そこで、一見したところは前倒しには見えないものの、実際のところは前倒しになっている、という形を目指します。つまり、自分を欺くのです。
例えば、「500円玉貯金」という貯金メソッドがありますが、このメソッドの特徴は、
というように、可能な限り判断の入り込む余地を減らしている点です。機械的に判断できるようにすることで迷いをなくすわけです。さらには、貯金をしているのだという意識すら薄れさせます。
これを仕事に応用してみます。例えば、企画書作成。
「企画書作成」などと聞くと、途端にひるんでしまいがちなところを、次のように一部分だけを切り出すことによって、あたかも「企画書作成」ではない何か別の仕事をしているような気分にさせるわけです。
いずれも、筆者自身が実践している方法です。携帯電話の代わりに、取り組んでいる仕事に関する問いを書いた紙をポケットに忍ばせておくのもいいでしょう。ちょっとした空き時間にその紙を取り出して眺めたり、思いついたことを書き込んだり、あるいは近くにいる人に見せて意見を求めたり、といったことが容易にできるからです。
こうして、少しずつ材料を集めていくことによって、いつの間にか手元にはたくさんの貯金ができているはずです。
サイボウズの青野慶久社長は著書『ちょいデキ!』の中で次のようなシゴトハックを紹介しています。
私は平日、ほぼ毎日ブログを書いています。ネタを考えて文章にするのは、なかなか大変です。そんなときは、歩きながら、「今から30秒間で明日のブログをしゃべってください」と自分に指示を出して、歩きながらしゃべります。30秒という制限をつけると、頭が無理やり回転させられ、意外としゃべれるものです。それを後で、自分で聞き取りながらテキスト化してアップします。
このやり方だと、パソコンの前に座って書くより、ずっと早くブログが書けます。
ブログ以外にも、講演の原稿や大事なメール、企画書などについてもこのやり方が役に立つとしています。これもまた、散らばっている時間を少しずつかき集めて繰り越す方法の1つでしょう。ポイントは「30秒間」という制約を設けることと、後から「聞き取りながらテキスト化してアップ」という「戻す」手順を明確にしておくところです。
せっかくスキマ時間を使って材料を集めても、これをまとめる方法を知らなければ無駄になってしまうからです。
1974年、東京生まれ。ブログ「シゴタノ!仕事を楽しくする研究日誌」主宰。学生時代よりビジネス書を読みあさり、システム手帳の使い方やスケジュール管理の方法、情報整理のノウハウなどの仕事術を実践を通して研究。その後、ソフトウェアエンジニア、テクニカルライター、専門学校講師などを経て、現在は仕事のスピードアップ・効率アップのためのセミナーや研修を手がける。デジタリハリウッド講師。著書に『「手帳ブログ」のススメ』(翔泳社)『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『チームハックス 仕事のパフォーマンスを3倍に上げる技術』『そろそろ本気で継続力をモノにする!』、近著に『Life Hacks PRESS vol.2』『LIVE HACKS! 今を大切にして成果を5倍にする「時間畑の法則」』がある。
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