では、このような悲しい出来事をなくし、ビジネスの大原則である「相手を喜ばせる」ことを実践するには具体的にどうしたらいいでしょうか。
そのひとつの方法は「感情目標を設定する」ことです。感情目標とは、取引相手に喜びの感情を持ってもらうことを目標に定めること。ただし、単純に「喜んでもらう」だけだと、いまひとつ分かりにくいと思いますので、その感情が芽生えたときに発する言葉や行動を決め、それを言ってもらったり、やってもらえるということを目標にするといいでしょう。
冒頭に上げた大道芸人たちは、自分の売り上げが、観客の驚きの歓声や笑い声と直結していることを知っています。だから彼らは、観客をいかに喜ばせるかということに真剣に取り組めるのでしょう。
それと同じように、相手が喜んだことを知るための具体的な言動を意識します。例えば、料理店であれば「おいしかった!」、サポート系のビジネスなら「助かったよ」――などの言葉をかけてもらった回数を目標に決めるのです。具体的な言葉や行動を決めて、それを受け取るようにするためにはどうしたらいいかということを考えさせるのです。
このように、「自分のビジネスを通じて、相手にどのように喜んでもらうか」を考えることは重要です。目先の数字を追いかけるあまりビジネスの本質を忘れがちなビジネスパーソンにとって、感情目標を決めて、自らのビジネスのクオリティを上げるための工夫に取り組むことは、有効な考え方ではないでしょうか。
特に、新人や若手社員は、放っておくと独りよがりの考えに陥ってしまうことがままあります。そうならないためにも、部下を育てるにあたって、一番始めに伝えておかなければいけないことは、この「ビジネスは相手から受け取る以上の価値を提供することで相手を喜ばせること」という大原則だと私は考えています。
さて、「ビジネスは相手を喜ばせる」という大原則を部下に伝え、感情目標を設定したとしても、これで部下が育ってくれるかというと、そう簡単にはいきません。この大原則を徹底的に刷り込むためにも、普段の職場の中で、相手を喜ばせる考え方を実践しなくては部下のやる気を生み出すことは難しいでしょう。
つまり、あなたが部下を喜ばせることができないと、部下も人を喜ばせることを実践して行かなくなってしまうというわけです。では、いったい部下をどう喜ばせたらいいのでしょうか。次回はその方法についてお話ししましょう。
マイルストーン代表取締役。「社会に活き活きと働く大人たちを生み出す」をスローガンに掲げ、リーダーシップ・モチベーション創造・自己表現力養成をテーマにした企業研修や公開セミナーを実施。また、研修・セミナー講師向けに、具体的な成果を生み出す効果的なカリキュラムの構築手法や、講師としてのマインド・人間力創りの指導も行っている。現在、日刊(平日)で、メールマガジン「1回3分でレベルアップ! 相手の心を掴むトーク術」を発行中。
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