教える前に絶対欠かせない「概念分析」とは?(前編)プロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術(1/2 ページ)

人間の基本的な学習モデルで押さえておきたいのが「アウトプット」。ですが、アウトプットを求めるがあまり、学習者に答えを教えてしまったら元も子もありません。果たしてどのように教えたらいいのでしょうか。

» 2009年01月30日 08時30分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]

 客先、上司、後輩を相手に、ビジネスパーソンがトーク術を駆使する場面は多々あります。そんなトーク術を解説する連載「プロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術」。第3回は前回に引き続き、「人間の基本的な学習モデル」について説明します。

すべては「アウトプット」のために

 前回、人間の基本的な学習モデルとして「前提知識→設問→考慮時間→アウトプット→フィードバック」の流れを紹介しました。今回は「前提知識」について書きますが、その前置きとして強調しておきたいことが1つあります。それは、

  • すべてを「アウトプット」のために構成しなければならない

 ということです。「アウトプット」とは、受講生自身が考えたことを自分の言葉で書いたり、しゃべったりする活動のことを言います。暗記したことをそのまま答えるのではダメで、状況に応じて知識を組み合わせるという「考える」作業をした上で答えることが重要です。その「アウトプット」を引き出すことこそ、「教える」活動の最大目標ですので、「教える」ためのすべての努力は「どんなアウトプットを引き出すのか?」をイメージして行わなければなりません。

 しかし、だからといっていきなり「アウトプットのイメージ」を考えようとしても無理な話です。その前にやらなければならない、すべての土台になる作業があります。それが今回から2回に分けて取り上げる「概念分析」です。

「道路の渡り方」を子供に教える場合の前提知識とは?

 誰でも分かるような単純な事例のほうが分かりやすいので、「子供に道路の渡り方を教える」というケースを例に取りましょう(ただし、仮想事例です。実際に子供の教育をするシーンのお手本ではありませんので、ご注意ください)。

先生 (小学1年生ぐらいの子供に対して)道路を横断するときはどうすればいいかな?

子供 みぎとひだり見て、くるま来てなかったら、わたる!

 このシーンにおける「どうすればいいかな?」が、「設問」であり、それに対する子供の返事が「アウトプット」です。さて、これを教えるときに、「先にお手本を見せる」という方法を取ると以下のようになります。

先生 【お手本教示】じゃあ今から先生がお手本みせますからね。
はい、ここが道路ね。それで、道路の向こうに行きたい、そう思ったら、
まず右見てね、くるま来てたら、渡っちゃダメよ。
来てなかったら、次に左見るの。やっぱりくるま来てたら渡っちゃダメ。
それからもう一度右見て、くるまが来てなかったら、
手を挙げて、渡りましょうね。いい? 分かった?

子供 ハーイ!

先生 【設問】じゃ、今言ったこと聞くよ? 道路の向こうに行きたいときは、どうすればいい?

子供 【アウトプット】みぎ見て、ひだり見て、みぎ見て、くるまが来てなかったら手を挙げてわたればいい!!

先生 【フィードバック】そーお! そうそう、分かったね? じゃ、やってみましょうね!

 現実に子供に道路の渡り方を教えるなら、上記のように「答え(お手本)を先に見せてしまう」のが普通ですし、私もそのほうがいいと思います。

 ですが、もし「お手本」なしで子供に考えさせるなら、と、「自分で考えて答えを出す」ことをゴールに設定してみましょう。そのためには、先生はどんな「前提知識」を語る必要があるでしょうか?

問題・課題・特性・解決策をワンセットで考える

 子供の【アウトプット】を見てみると、「みぎ見て、ひだり見て、みぎ見て、車が来てなかったら手を挙げてわたる」とあります。なぜこんなことをしなければならないかというと、要するに車にぶつかると危ないからという当たり前の話です。このあたりのロジックを整理してみましょう。

問題解決ストーリー
1 【問題点】 車にぶつかると危ない
2 【課題】 安全確保するにはどうしたらいい?
3 【特性A】 車は道路を走ってくる
4 【特性B】 車が接近するには時間がかかる
5 【特性C】 道路横断時は右と左から車が接近してくる
6 【特性D】 右側から来る車のほうが先に危険になる
7 【解決策】 右・左・右の順に見て安全を確認し、手を挙げて渡る

 上に列挙した中には「問題点・課題・特性・解決策」という4種類の情報があります。「問題点」は困っていることであり、解決策を考える動機になります。「課題」は「実現すると良いこと、実現したいこと」です。同じ問題点から、「課題」が複数出てくることがありますので、問題点と課題は区別しておくほうが扱いやすくなります。

 一方、「特性」は課題を実現するために考慮しなければいけない、関連する要素が持っている性質です。「車は道路を走ってくる」とか、「右と左から接近してくる」とか、おいおいわざわざそんなことまで言わなきゃ分からんのか、と思いそうですが、これはもうできる限り細かく分解し明文化しておかなければなりません。ただし、「細かく分解し明文化しておく」のは、教える側の人間が準備としてするだけで、実際にそれを1から10まで手取り足取りやるとは限りません。

 そして、それらの特性を総合的に考えて「課題を実現するための法則」を組み立てると、それが「解決策」になります。

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