さあ! それじゃあ、いよいよ「聞き取る力3倍パワー」です。
先ほどわたしは、「お客様の話を聞き取ることが営業の仕事だ」と言いました。一体具体的にはどんなことを聞くのでしょうか? いえ、その前に実は「誰に」聞くのかが問題です。
こう見えても「新規開拓の神様」と言われたこの吉見範一、新規開拓のための「聞く」プロセスについては一家言持っています。それがこれ。
まずは、開拓したいターゲットの同業他社で、既に取引のある会社に行きます。取引がある、というのは、売りたい商品を既に買ってくれた会社ということです。行って何をするのかというと話を聞くのです。聞くポイントは、
- 昔は何に困っていたのか
- なぜこの製品を導入しようと思ったのか
- なぜライバルではなく当社を選んだのか
- そして導入後はどうなったのか
こういう情報を既存の取引先から聞き出します。何度も通って丁寧に聞き取り調査を行っておいてくださいね。
こうして集めたネタをどこで使うのか。もちろん、本当に売り込みたい新規開拓のターゲット企業を訪問したときです。
これにははっきりとした理由があります。というのは、営業の初動段階では、商談相手の業界内で共通する話題に注目するのが一般的だからです。要するに同業他社がどうしている、という情報はみんな欲しがるんですね。それがどんなにささいなことであってもです。だから、先に同業他社を訪問してネタを集め、そのネタをターゲットにぶつけるのが効果的なんです。
最終的には「開拓ターゲット」の企業から「今何に困っているか」を聞き出したいのですが、例えば、
初めまして。○○社の営業です。御社では何にお困りですか。お聞かせください
なんて聞いても誰も話してくれるはずがありませんね。なんだお前は、今忙しいんだ帰れ帰れ、ピシャ! と閉まったドアの前で人知れず涙をこぼすのが関の山。いやこれは心の汗だから、なんて強がっても誰も笑ってくれません。
結局、人から話を聞き出すためには、リアルな事例を取り出して、同時にいい「質問」をかまさないといけないんですね。わたしが営業をするときの典型的なトークはこんな感じのものでした。
あの、実は、最近いくつかのお客様のところで、○○○○に困ってるんだよね〜 という話をよく聞くんですけど、御社ではそんなことありませんよね?
太字にしている「○○○○に困ってるんだよね〜」というところに注目してください。これは、営業の側から情報を与えるトークです。ここで与えるネタ(情報)は、自分自身が既存客から直接聞いたものでなければなりません。新聞とか雑誌とかネットとか、そういうものも1割ぐらいはあっていいですが、基本的に9割は自分が直接当事者から聞いた話でなければだめです。
そして、「御社ではそんなことはありませんよね?」(※問題なんて何ひとつないんでしょ?)という質問。わたしはこういう「よね?」という語尾で確認を取る感じの問いかけをよく使っていました。こんな形に質問を組み立てると、リアクションが全然変わってきます。
どうですか。「今忙しいんだ帰れ帰れピシャ!」に比べるとえらい違いでしょう?
この違いは、トークの中で
をうまく構成できているかどうかにかかっています。これができるとお客様は「オレの悩みを分かってくれる人がいた! うれしい!」という感じで喜んで話をしてくれるんです。
営業が客先で商談をする場面というのはこんな「情報提供+質問」の連続です。一見、営業がしゃべっているように見えても、それは「質問をするために必要な情報提供」なんですね。あくまでも「質問」のほうに力点があることにはくれぐれも注意してください。
え、なんですか? 質問が大事なことは分かったけれど、2人で行くユニット営業方式にすればそれがやりやすくなるのはどうしてかって?
これはいい、いい質問ですねえ。そこなんですよ、問題は。
客先で面談をしている間、営業の頭の中は「次にいったいどんな質問をしたらいいか?」を考えてフル回転しています。この事例を持ち出しても反応が弱ければ次の事例を。それでも反応がイマイチだったら、また次の事例。このように共感を得られる話題が見つかるまで次々と取り出していきます。どの事例が最も興味を示すのか、頭の中は“超高速のフル回転“です。相手が抱えている問題点を突き止めるまでは手を抜くわけにはいきません。ハッキリ言ってメモを取っている暇がないぐらいです。
でも、メモを取らないわけには行きません。聞いたことは書かなければならない。書く作業をしつつ次の質問を考えるというのは、やってみれば分かります。非常に大変な作業なんです。
もし、「書く」仕事をやってくれるアシスタントがいたら……。
はい、分かりましたね? それが、「2人で行くユニット営業」の「聞き取る力3倍パワー」なんです。
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