ここで紹介するのは、TRIZ理論の9windowsという手法です。これは、優れた事業家、発明家たちの思考方法を研究し作り上げられた手法です。さまざまな人の優れた思考パターンをシンプルなステップにし、それを追いかけることで、かなり高い確度で発想できる方法です。ステップは多いのですが、ひとつひとつは単純です。発想のための材料をつくっていく作業を通して、最後には、自分でも予想していなかったアイデアを出すことができます。
具体的には、以下のようにして、5年後の新製品のアイデアを発想します。
ステップ | 実行内容 |
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ステップ1 | 新製品を発想しようとしている対象物の現在の姿を書きます。現時点で、自分たちがその製品を開発していなくても結構です。他社、ライバルたちの製品でも大丈夫です。 |
ステップ2 | その製品の構成要素を書きます。具体的には、構成部品、材料、要素技術です。 |
ステップ3 | その製品を取り巻く社会環境を書きます。具体的には、使う人(ユーザー)、社会インフラ、その製品を取り巻く環境です。 |
ステップ4 | その製品の10年前の姿を書きます。昔の情報が少ない場合は、ベテランの方に知恵を貸してもらうか、Wikipediaなどを使って情報を集めます。 |
ステップ5 | 10年前の製品の構成要素を書きます。同じくベテランの方の情報やWikipediaなどを活用します。 |
ステップ6 | 10年前の製品を取り巻く社会環境を書きます。同じくベテランの方の情報やWikipediaなどを活用します。 |
ステップ7 | 5年後の製品の構成要素を発想し書きます。「今後5年間の構成要素の進化の程度」は「過去10年の進化の程度」と同程度である、という法則性を目安にして、「5年後の製品の構成要素」などを発想します。 |
ステップ8 | 5年後の製品を取り巻く社会環境を発想し書きます。ステップ7と同様の考え方で、「5年後の製品を取り巻く社会環境」を発想します。 |
ステップ9 | 「5年後の製品の構成要素」と「5年後の製品を取り巻く社会環境」を組み合わせたらどんな製品がつくれるだろうかと考えて、製品アイデアを出し、書きます。発想というより、設計に近い行為です。 |
この発想ステップは9windows(9画面法)と呼ばれています。それを分かりやすくデザインしたものが上の図です(※)。これを大きくコピーして、1〜9まで順に埋めていくことで、効果的に発想ができます。
ステップ1で、製品が抽象的なカテゴリー名の場合は、併記する形で、1〜3つほど、具体名もつけておくと考えやすくなります。
この手法のキーポイントは、技術システムの進化の傾向「過去10年分の変化≒将来5年分の変化」を使う点です。そして、それを製品に直接適用するのではなく、製品の内部と外部のより本質的な物事に適用することで、発想の質を高めています。
ステップ7と同8の部分に良い予想データを用いると、発想する新製品の質が非常に高くなります。特にステップ8には「未来年表」を用いると良いでしょう。
「構成要素」と「社会環境」が分かりにくいときは、考えているものの「内側にあるもの」と「外側にあるもの」とをいいかえてみると良いでしょう。
あなたの会社で、掃除機の新商品を企画することになりました。5年後の新製品を目指し、アイデアを社内公募しています。来週までに、アイデアを3つほど出すことにしました。
ステップ | 実行内容 |
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ステップ1 | 対象物の現在の姿を書く。 ・掃除機(メーカーサイトなどで具体的情報を得る) |
ステップ2 | その製品の構成要素をあげる。 ・静かで高い吸引力モーター ・ティッシュでフィルター代用 ・サイクロン、排気循環 ・吸水掃除タイプ ・吸引パワー自動制御 ・自走式 |
ステップ3 | その製品を取り巻く社会環境をあげる ・エコ、廃棄コスト ・花粉症、アレルギー ・高齢化(ユーザーの体力低下) |
ステップ4 | その製品の10年前の姿を書く ・10年前の掃除機(「掃除機 歴史」などで検索すると具体的情報が得られる) |
ステップ5 | 10年前の製品の構成要素を書く ・高い集塵力 ・コードレス ・紙パック、フィルター ・スポンジフィルターで排気をろ過 |
ステップ6 | 10年前の製品を取り巻く社会環境を書く ・エコが提唱されつつも、使い捨てカメラなどがまだ台頭 ・環境ホルモン ・パソコン、携帯電話(精密電気製品)の普及 |
ステップ7 | ステップ2とステップ5の変化量から、5年後の製品の構成要素を発想する。 ・吸引機構の高出力、低騒音化→高エネルギー効率の吸引機構へ ・(ステップ2、同5にはないが)小型電池の普及→高エネルギー効率化と相まって、充電式が台頭 ・フィルターの省資源化→吸引したものでフィルターを形成する機構の登場 ・吸引物粉砕の抑制技術の発展→吸引物の高粒子化(凝集化)技術 ・自走式の登場→簡単な片づけの機能(定位置搬送) |
ステップ8 | ステップ3とステップ6の変化量から、5年後の製品を取り巻く社会環境を発想する ・社会のエコ化→メーカーの部品引き取りを前提にした構造に ・高齢化→さらに高齢化(視力、聴力、腕力の低下) ・関心がもたれている汚れの粒径が増大(環境ホルモン→花粉症)→さらに粒径の大きな汚れに関心が集まる→(高齢化も相まって)排泄物の居室内清掃 |
ステップ9 | 「5年後の製品の構成要素」と「5年後の製品を取り巻く社会環境」を組み合わせたらどんな製品をつくれるだろうかと考えて、製品アイデアを出す ・排泄物を吸い取り、スチーム殺菌・消臭できる掃除機 ・フィルター生成機能つきの掃除機 ・(掃除機の概念を外れるが)空気の汚れを検出して自分で移動する自走式空気清浄機 ・(掃除機の概念を外れるが)衣類についた汗やにおい物質を吸い取る吸引型の洗濯機 |
このように発想していきます。
なお、ステップ7、同8を構想する段階でもアイデアがかなり出るので、そのアイデアも書きとめておきます。
この発想手順だと、なぜそれを提案するのかが非常にクリアなため、アイデアを人に説明しやすくなります。また、シートに記入していきながらなので、それを人に見せた場合、思考をトレースしながら、別の発想を考えつくことも多く、人からさらにアイデアを引き出すことが容易になります。
連載「アイデア・スイッチ」、いかがだったでしょうか? 誠 Biz.IDでの連載は今回でいったん終了です。さらに詳しい内容をご覧になりたい方は、書籍で続きをお楽しみください。
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