電子書籍をフリマで対面販売する「電書部」が目指すものとは(後編)電書部の真実(2/3 ページ)

» 2010年07月13日 13時15分 公開
[山口真弘,Business Media 誠]

電書では、著者も読者も1人の人のなかに混在している

米光氏 いま、デバイスが、対面販売を想定してないと思うんですよ。まあ、しないのが普通だろうけど(笑)

誠 Biz.ID しないですよね(笑)

米光氏 でも、対面販売を想定したデバイスがでると、すごく社会が変化すると思う。ポケモンを交換するぐらい気軽に、電書を作って、渡して、人のを読んで、ってできるとおもしろい。

誠 Biz.ID 著者と読者が完全に線引きして分かれているのではなく、両者が入れ替わり立ち替わり、といったイメージですね。

米光氏 そうです。自分の書いた電書を会った人に手渡せる。著者も読者も1人の人のなかに混在している。仕事で会ってる人だけど、おたがいに釣りが趣味って人は、仕事のうちあわせしてるときに勝手に電書が交換していて、あとからもどって互いの釣りの電書を読むとか。

誠 Biz.ID 趣味嗜好の近い方のコミュニケーションといったところでしょうか。

米光氏 電書部員に、自主製作の映画監督がいます。彼が自分の好きな監督のインタビュー集「自主映画テクニカ」を電書で作ってる。5人ぐらいの監督のインタビューが載る予定です。これ、PCが一台あれば、上映会の会場で、売れちゃうんですよ。紙の本だと在庫をどう抱えるかとか、郵送とかなんとかたいへんだけど、その手間がまったくなしでPC一台あって人がいれば渡せる。そうすると他の4人の監督のことを知ってもらえる。電書が自主映画のコミュニティのハブとしてひとつのツールになると思うんですね。ネットで販売っていうよりも、その上映会で販売しているほうがいい。そこに行った人がそこで買って読める。

誠 Biz.ID ハブという考え方は面白いですね。

米光氏 読者と作者がよりダイレクトに結びつく。コミュニケートできる場をつくるきっかけとしての電書の役割。書籍って、編集者やデザイナーや、著者や校正者の手を経て、取次や流通や、営業や書店や、いろんな人の手を経て世に出て行く。それは逆にいいことで、それだけの人が届けようとしているモノだっていうパワーがある。だから書籍ってちゃんと重い。価値がある。でも逆に、それをすっとばして手渡せる本があってもいいなーと。それは軽いかもしれないけど、軽いことがプラスになることもある。途中経過のような本として電書があってもいい。わっと作って、その電書をスタートとしてあれこれ対話して、何か作って、それでまた電書作って。その成果として最終的に紙の本を出すというのでもいい。電書って、何かのスタートのきっかけにできる、プロセスとして出せる。簡単だし、経費かからないし、すぐ出せるから。経費かかるし、手間もかかるし、すぐ出すには適さない紙の本はもっとしっかり作って、あるひとつの結論を提示するものになっていくんじゃないかなーと思います。


電子書籍部の活動を通じて得られたノウハウも積極的に開示している。写真は6月19日に開催された「粒谷区立ツブヤ大学レギュラー講座『GaMe』電子書籍スペシャル」の様子

誠 Biz.ID KindleのあとにiPadもでて、プラットフォームが身近になってきたというのも大きそうですね。

米光氏 そうですね。そこが、もっと、どんどん身近になってほしい。

誠 Biz.ID そのへんのウェブと電書の違いは、冒頭に伺った、どの読者層を想定するかといったところにつながってくると。

米光氏 うん。「自主映画テクニカ」みたいなものは電書で、上映会場で売ってるほうがいい感じがするでしょ。求める人のところに求めるものがあるという。その感じは、作り手側にも影響を与える。ウェブだとばかばかしい炎上になる可能性もあるから言えないことだって、しっかりと言える。あれこれ危険性を考えてそれを避けた文章って、つまんない。そうじゃない文章が書ける選択肢のひとつとして機能すればいいなーと。

誠 Biz.ID なるほど。対面販売という選択肢が消去法で残ったわけではないということですね。

米光氏 ええ、実に積極的な対面販売なんですよ。というか、勝手な未来像として、名刺を交換するぐらいの感じで電書を交換してる社会ってありだな、とかって思ってます。会った人のこと詳しく知りたい。けど、例えばいきなりは「ゾンビマニアです」って言えない場合が多いけど、電書にその思いをまとめて、渡すことはできる。

誠 Biz.ID ゾンビマニアですか(笑)

米光氏 初対面でゾンビ話をえんえんとするのは、まあ、ねぇ、できない。でも、電書ならもらったほうは、興味がなければ(この人は)ゾンビ好きなのかー、で読まなきゃいいけど、興味あれば読んで、また自分が電書作って次に会った時に渡すとか。名刺って名前と肩書きだけしかないけど、人ってそんなに単純じゃないから、そういう部分もちょっと手渡せたり、コミュニケートできるようになると楽しいかなーって。

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