日系企業と外資系企業のどちらの人事が“ドロドロ”しているだろうか。そんなことをひもといたのが『外資系企業で成功する人、失敗する人』(PHP新書)である。これは若手のキャリア必読書だ。
人事コンサルタントを務めるかたわら、人事制度、採用などの各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。著作に『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか−アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』ほか。
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この連載は城繁幸氏の公式ブログ「Joe's Labo」から抜粋・再編集したものです。
以前、どこかの勉強会で話した時、某外資系エコノミストに「びっくりしました。仕事しないマネージャーなんて、ホントにいるんですか?」と聞かれて僕もびっくりしたことがある。日本の大企業では、そっちの方(仕事をしない方)が多いという意見もあるが、少なくとも、その外資系企業のカルチャーでは仕事をしないマネージャーは、まれらしい。
日系企業と外資系企業のマネージャーではないが、日系と外資系の比較論という意味で、本書はとてもバランスが良い。日系・外資双方に勤務経験のある著者が、どちらかというと日本人目線で外資の作法を解説してくれる。
著者は「外資は決してドライではない。むしろドロドロした面は日本企業以上だ」と述べる。確かに、絶対的人事権を握る上司への露骨なゴマすり、ピーアールしなければ手柄と認められず、ばれなければ失点とされないカルチャーは、一見すると日本企業よりもウエットだと感じる人もいるだろう。
ただし、やはりそれはドライなのだ。職場という日常空間において、すべて目に見える形でドラマが進行するのだから。本当のドロドロは、表には出ない裏に溜まるものだ。
日本企業では人事権の所在があいまいであり、評価の基準は誰にも分からない。人事部が一定の人事権を握っていることは事実だが、彼らはどちらかというと評価の分布を作ったり、「10年目で昇級は○割」という内規を作ったりするだけで、人事を担当している個人の顔は見えない。
つまり一従業員からすると、なんとなく勤続年数に応じて給料が上がり、30代のどこかで幹部になる人なれない人の分岐点が訪れる世界だ。それはとても閉鎖的で、ウエットな空間である。
例えば、雇用調整。アメリカ人に「やあケンジ、君の仕事がなくなってしまったよ。まあ次の会社でも頑張れよ」と言われるのと、上司から「自己都合で辞めてくれ。断ると山口支店に行ってもらうよ」と言われるのと、どっちがドロドロだろうか?
そんなもんである。
著者は本書を読んで、合わないと思った人は外資への転職は控えたほうが良いと総括する。その通りだろう。
ただ、今後は望む望まないに関わらず、日本企業自体もドライな方向に進むだろう。日本企業における“ドロドロ”は、年功序列という暗黙ルールの下、終身雇用というひどく風通しの悪い空間に溜まったよどみだ。それらが崩れていく中で、徐々に湿気も失せていく――のではないだろうか。
そういう意味で本書は、転職のリトマス試験紙というよりも、若手にとってのキャリア必読書というべきなのかもしれない。
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