洗浄が終わった写真も劣化は進んでいってしまう。また、洗浄のために分解が必要なアルバムは、その過程で写真を傷めてしまう恐れがあるため、デジタルデータとして複写・保存を行っている。こうしておくことで、後に紹介するデータベース化もスムースに行えるようになるのだ。
複写もまた地道な作業だ。デジタル一眼レフカメラを固定し、レフ板で外光を調整し、できるだけ拡大に耐えうる状態で撮影する。アルバムならばページをめくりながら1枚1枚根気よく撮影していく。
筆者もアシスタント役の女性ボランティアとペアとなり、シャッターを切っていったが、中には最近撮影したばかりの生まれたばかりの赤ちゃんやそれを囲む家族のアルバムも出てくる。こうやって、写真が流されてしまったということは、少なくとも家が半壊・全壊したことを意味するのだ。思わず「この人たちは無事だったのだろうか」と胸にこみ上げるものがあった。
それに、まだ電力が十分にない被災地では、照明を一度にたくさん点灯してしまうと、撮影場所となっている建物全体のブレーカーが落ちてしまう恐れがある。従って撮影は、外光を頼りに微妙な調整を続けながら、日没との競争だ。クーラーのない部屋の中でひたすらシャッター音が響く。
洗浄と撮影が終わった写真達は、町役場近くの「ふるさと伝承館」に展示。もともとは、地域の伝統工芸や郷土芸能などを継承する活動をしたり、創作活動をしたりする施設――だが、今では震災前の記憶を伝える写真が持ち主に返る日を待っているのだ。
普段、電子書籍などのIT動向を追う筆者は、著名作家がたびたび指摘する「震災のあとに残された希望」をそこに見る思いがする。津波によってすべてを失ってしまった被災地では、震災前の日常を取り返すべく人々の努力が続いている。写真とその背景にある「物語」はその原動力となるものだからだ。
現地でこの活動を主導しているのは、日本社会情報学会の若手研究者だ。それをニフティや富士フイルムなどの企業が支えている。口コミでその存在が知られていった「思い出サルベージ」には、5月の活動開始以降のべ約300人のボランティアが参加し、ついに約70万点(推定)の写真の洗浄と複写をほぼ完了できたという。
現在は、複写(つまりデータ化した写真)をデータベース化する作業がスタートしている。地元の人に写真を見てもらい、そこに映っている人物や場所などの情報を写真とひもづけていくのだ。さらに大量の写真に対応するため、ボランティアスタッフによる写真へのタグ付け(卒業アルバムや結婚式といった、見かけ上で分かる写真の特性)も行われている。
今後は、ニフティのクラウドサービスを活用することで、町役場にある展示会場まで来なくても、仮設住宅の集会場で写真検索できるようにすることも計画しているという。印刷方法が異なるため洗浄が困難な卒業アルバムについては、学校に保管していて無事だったアルバムをやはり共有することを検討している。
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