70万枚(推定)の写真を洗浄・複写する「思い出サルベージ」を手伝ってきたビジネスパーソンボランティア(1/3 ページ)

 東日本大震災の被害にいてもたってもいられなかった人も多いはず。一方「俺なんかが行っても足手まといにしかならないかも」としり込みした人も多かったようだ。今回は、そんなビジネスパーソンでもできるボランティアを筆者が体験してきた。

» 2011年07月28日 11時00分 公開
[まつもとあつしBusiness Media 誠]

 東日本大震災の津波の被害は、地理的に広範囲に及ぶだけでなく、モノに込められた思いも押し流していった。

 家族や友人の大切なアルバム・写真もその中の1つだ。筆者は猛暑日が続く7月16日〜17日に宮城県山元町へ、写真洗浄・複写ボランティアに参加した。今回はそのリポートをお届けしたい。


がれきの中から救い出した推定約70万点の写真

津波で流出した写真

 ボランティアというと、避難所で救援物資の運搬や整理にあたったり、被災地でがれきや汚泥の除去を行ったりと、かなりの肉体労働を想像する人も多いはずだ。しかし写真の洗浄と複写も、神経を使う大変な作業であることには変わりはないが、力がないとできない種類のものではない。

 朝6時半に新宿駅前に集合した「思い出サルベージ」(第8回洗浄複写会)の約90人の参加者のうち半数以上が女性。年配の人もおり、学会からの参加者、つまり普段は研究者という人も多い。いわゆる体力勝負の「ガテン系」なボランティアでないことは一目瞭然だ。

 ちょうど仙台で「東北六魂祭」(とうほくろっこんさい。青森ねぶたまつり、仙台七夕まつりなど東北のまつりをPRするイベント)が行われるタイミングで、チャーターバスの道のりは渋滞。約7時間かけて現地に到着した。ボランティアのスタッフから作業や注意事項の説明があり、メンバーは3つの班に分かれさっそく作業開始となった。被災地で見つかった写真は以下の3つの工程を経て、思い出を探す持ち主のもとに帰って行く。

  • 洗浄
  • 複写
  • 展示

 さらに筆者がボランティアに参加した2日目には「データ入力」という新しいステップが始まっていた。都合4つの工程すべてを、ボランティアとして実際に行ったので、その概要をご紹介したい。力仕事であるボランティアに二の足を踏んでいる人も、こういう貢献もある、という参考になれば幸いだ。

海水と泥にまみれた写真を洗浄する

 津波にのまれた写真は、海水と泥によって汚れているだけでなく、塩分やバクテリアがその表面を浸食している。消防や自衛隊、ボランティアが回収した写真を、まずは地域ごとに整理し、そこから水を使って丁寧に汚れを落としていく。

印画紙には、赤青黄色の色素を含むゼラチン層が塗布されている。このゼラチン層を海水や汚泥に含まれたバクテリアが「食べて」しまい、写真は判読できなくなるという

 水中で行うその作業は非常に繊細だ。写真の表面を指先でゴム手袋越しに確認しながら、泥だけを静かに取り除く。インクジェットプリンタで印刷した写真の場合、一気に水洗いしてしまう。

東京から参加した会社員の岡島さん。以前からボランティア活動に参加したいと考えていたが、力仕事ではないこの活動をインターネットで知り参加を決めたという

 炎天下のプレハブ小屋での神経を使う作業だが、重なってくっついてしまった写真や泥の下から、子供の写真が出てくると思わず小さな歓声が上がる。もちろん、600人以上が亡くなったこの地域で、被写体や持ち主が健在である保証はない。それでも、誰かの思い出を1つ救い出せたという充足感がそこにはある。

 洗浄が終わった大量の写真は陰干しする。「思い出サルベージ」ではたとえ判別できない写真も破棄することはない。これだけの記録が失われたということも記憶として残しておく意義がある、と考えているからだ。

 こうして乾燥した写真は次の工程「複写」へと回される。

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