キャリアは航海である――新社会人に贈る言葉(4/4 ページ)

» 2012年03月27日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
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「内なる声」によって自らを導く

 目的地を描くとは、言いかえれば、抗し難く湧き起こってくる「内なる声・心の叫び」によって自分を導いていくことです。それを私は「自導」と呼んでいます。

 20代は特に目的地を考えずとも、ある程度“勢い”でキャリアを進んでいけるものです。しかし30代に入ると、キャリアが停滞したり、漂流したりすることが起こってきます。このときにうまく「自導」できる人と、できない人の差が出始めます。それは、詰まるところ自身の「内なる声・心の叫び」を聞き取り、勇気を持って行動に移すかどうかの差です。

 1番目の「自立」も大事ですし、2番目の「自律」も大事です。しかし、キャリア・人生の分岐点を作るという意味では、この3番目の「自導」ができるかどうかが一番大事なことです。

 この記事を読んでいる方のなかには、最初の就職先が上位に志望した会社ではなく、どちらかというととりあえず入社できた会社という人もいるでしょう。そして一流と言われる企業に就職した人たちをうらやましく思っているかもしれません。最初の就職会社というスタート地点も人生の分岐点であることは確かですが、それよりもはるかに大事な分岐点は、今後のキャリアの途上で「自導的」になれるかということです。

 結局、自導的でない人は、進むべき方向も意味も持っていないので、真の活気が湧いてこない、働く発露がない。逆に自導的な人は、状況がどうであれ方向感と意義を感じながら、地に足を付けて力強く働ける。しんどくても快活になれる。迷いがない。

 第1志望の一流企業に入っても、キャリアを漂流させたり、場合によってはメンタルを病んでしまう人はいます。一方、入社先は必ずしも志望の上位ではなかったが、その後、自分の仕事を通して目的や意味を見出し、はつらつと働き、実績を出してステップアップの転職をかなえる人もいます。

 キャリアは短距離競走ではなく、自分なりの表現で完走を目指すマラソンです。10年、20年という時間単位で、自分をどう導いていくかという目線が必要です。ですから、決して焦らず、自分は一職業人として「何者でありたいのか」という“内なる声”に耳を傾ける意識を忘れずに持ってください。

「分析」より「想い描く」ことが大事

 さらに加えておくと、その“内なる声”は自己分析によって聞き取れるものではありません。評論家の小林秀雄は『文科の学生諸君へ』の中でこう述べています。「人間は自己を視る事から決して始めやしない。自己を空想する処から始めるものだ」と。同様に、ウォルト・ディズニーは、「夢見ることができれば、成し遂げることもできる」との名言を残しました。

 自分を使って世の中に何を届けたいのか──それを想うこと、描くこと、願うこと、誓うこと、これが“内なる声”を聞くことです。アタマで分析するのではありません、胸をふくらませ、肚(はら)で決めることです。

 ひとたび、その“内なる声”を聞いて、大いなる目的を持てば、そこからエネルギーが無尽蔵に湧き上がってくるでしょう。そして、その目的地(最初は漠然とした目的方向・目的イメージでも良い)から逆算して、船体はこれで大丈夫か、船体のどこそこを補強する必要があるぞ、とか、もっと精度のいい羅針盤を持ったほうがいいぞとか、自立や自律を補強する意識も生まれてきます。キャリアという航海を力強く進めている人は、そうした「自立・自律・自導」を善循環させている人なのです。

 さて、みなさんの航海は今、始まったばかりです。長い旅路です。航海は決してラクなものではありません。しかし、「しんどいけど面白い」「厳しいけど楽しい」「苦しいけど充実感がある」──それが良い航海です。それぞれが、ぜひ、良い航海をされんことを願っています。いつかどこかでお会いしましょう。Bon Voyage! (村山昇)

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