田中角栄の一撃に見た――相手の心をつかむ「超」説得法一撃「超」説得法(1/4 ページ)

「超」シリーズで知られる野口悠紀雄氏が、成功する説得の要点を大公開。説得の理論、相手の心のつかみ方とそのタイミングなどを事例を交えながら解説する。

» 2013年05月10日 10時00分 公開
[野口悠紀雄,Business Media 誠]

集中連載「仕事はできるのに、机がぐちゃぐちゃで困ってるきみへ」について

 本連載は2013年4月12日に発売した『「超」説得法 一撃で仕留めよ』(講談社刊)から一部抜粋しています。

 出版界の最前線で、100万部突破をはじめ数々のヒット作品で多くの読者の心をつかんできた野口悠紀雄が、成功する説得の要点を大公開。

 「たくさん投げるは人の常。一撃突破は神の業」「ドラッカーを読むより聖書を読もう」「必要なのは、正しさでなく、正しいと思われること」「うまく命名できれば千人力」「悪魔の方法から盗めないか?」など、全11章で説得までの筋道を、順を追って分かりやすく解説。

 説得の理論、相手の心のつかみ方とそのタイミング、ネーミングや比喩の使い方、やってはいけない説得法まで、具体的事例を交えながらビジネスシーンで活用できるノウハウを伝授する。


 ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授の業績「iPS細胞」は、Induced Pluripotent Stemcell(人工多能性幹細胞)の略だ。頭文字の「i」だけが小文字になっている。「朝日新聞」(2012年10月9日)によると、広く普及して欲しいとの願いから、山中教授自らが「iPod」にあやかって考え出したネーミングだそうだ。確かに、「IPS細胞」だと堅苦しい感じになるが、「iPS細胞」なら親しみが持てる。山中教授は、この「ひと文字」で、非専門家をも含む多くの人の心をつかんだのだ。

 この記事によると、教授は再生医療の講演で「少なくとも1回は笑いを取る」という。「関西でうけるネタは米国で、関東のネタは英国でうける」そうだ。「米国の学会では、無名の研究者でも、面白い内容なら発表後に研究者や科学誌の編集者らが集まってくる。つまらなければ、どれだけ高名な学者だろうと冷たい反応が待っている」

 発見したことを学界に、あるいは社会一般に理解してもらうには、説得行為が必要だ。また、研究費を獲得するためには、多くの関係者を説得しなければならない。山中教授のように偉大な業績を挙げた人でも、命名やプレゼンテーションに腐心しているのだ。ましてや、それに及ばない人(つまり、われわれ大部分)が努力するのは、当然のことだ。

 しばしば、つぎのように言われる。「重要なのは、説得しようとする中身だ。それが正しくて価値あるものなら、いずれ人々は分かってくれる。説得のための方法やテクニックを工夫するのは、本末転倒であり、邪道だ。そんな暇があったら、中身の充実に力を注ぐべきだ」

 「中身が重要」とは、その通りである。しかし「中身さえよければ人々は説得される」と考えるのは、誤りだ。中身は、説得が成功するための十分条件ではないのである。「説得テクニックは邪道」と言っている人は、山中教授の言葉をかみしめるべきだ。

 「説得」とは、相手の決定を変えさせること、あるいは、ある行動を取るよう決心させることである。社会生活をしている限り、説得という行為から逃げることはできない。「私は、説得などという面倒なことにはかかわりたくない。ノーベル賞など論外。会社の片隅で、他人の指示に従って生きるだけで十分だ」と言う人がいるかもしれない。

 しかし、これは甘い考えだ。いつまでもいまのポストにいられるとは限らないからだ。いつリストラの嵐が吹き荒れるかもしれず、そのときには、あなたが会社に必要な人間であると、人事部を説得しなければならない。山奥で仙人のように1人で暮らしているのでない限り、どんな人にとっても、説得活動は不可欠だ。

 実際、組織で仕事をしている人の毎日は、説得活動の連続だ。新しい事業企画を提案し、上司や関係者を説得する。会議で企画を説明し、出席者を説得して、承認してもらう。自社製品の営業で取引相手を説得する、等々。地位が上がるほど、多くの関係者を説得することが必要になる。会社のトップは、社員全員を説得して、目標に向けて努力させなければならない。

 では、どのようにして説得したらよいのか?

 まず相手の関心を引き、信頼を獲得する必要がある。そして、相手の判断を変更させ、最後にとどめの一撃を打つ。また、ネガティブな一撃を放たないように注意する。

 以上の過程で強力な「弾丸」あるいは「武器」として使えるのは、1つには「ネーミング」であり、もう1つは比喩である。

 本書『「超」説得法 一撃で仕留めよ』が提唱するのは、こうした「弾丸」を用いる「一撃説得」だ。これは、特殊な説得法ではない。成功する説得は、どれも何らかの意味で一撃的側面を持っている。それを意識し、磨くことによって、成功の確率が高まる。

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