イチローの集中力を支える心と身体トップ1%だけが実践している集中力メソッド(1/2 ページ)

集中力を支えるためには、脳と身体、どちらも常にベストコンディションにしておく必要があります。MLBのシーズン最多安打記録や10年連続200安打などの多数の記録を保持しているイチロー選手も、それを実践しています。

» 2013年11月20日 09時00分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

 集中力を支えるのは、何も脳だけではありません。脳と身体は切っても切り離せない間柄。どちらも、常にベストコンディションにしておく必要があるのです。成功者の多くは、体調管理や精神的な健全さを保つためのメインテナンスに余念がありません。MLBのシーズン最多安打記録や10年連続200安打などの多数の記録を保持しているイチロー選手も、その1人です。

 イチロー選手はキャンプ中と、シーズン中で、ものすごく練習の差があることで知られています。自主トレやキャンプ中は、徹底的に身体を追い込んで技術を固めます。例えば、イチロー選手はピッチングマシンを相手に3〜4時間黙々と打ち続けます。イチローの専任のバッティングピッチャーを務めたこともある奥村幸治氏は、これほどの練習量をこなす選手をほかに見たことがないそうです。

体力を無視して目標は達成できない

 イチロー選手がこれほどの時間をかけて練習するのには理由があります。実は、1球ずつに明確なテーマと目標を持っており、その目標をクリアするために打ち続けるといつの間にか、3〜4時間経っているだけなのです。1球ずつにクリアすべき目標を掲げている、というのは驚きです。100球打てば、100個のミニ目標。どんなシーンにでも一流と呼ばれる人はゴールを設定しているのです。

 一方で、シーズン本番に入るとイチロー選手の練習量は激減。それは集中力を切らさないためです。プロは本番で結果を出さなければいけません。一番に考えるべきは安定したパフォーマンスを上げること。自主トレやキャンプ中に徹底的に身体を追い込んで技術を固め、シーズンが始まってからは、安定したパフォーマンスを発揮するための体調管理に徹する。連日の試合で疲れている身体で無理に練習すると、どんな技術も発揮できなくなる、という考え方をイチロー選手は高校卒業したころからずっと持ち続けています。

 こんなエピソードがあります。あるイチロー選手の先輩が開幕から3カ月3割を打ち続けていました。練習熱心で遠征先でも試合後に素振りを欠かさなかった。周囲も、あれだけ熱心に練習していれば好調が維持できるはず、と考えていましたが、イチロー選手だけは「彼はこれから絶対に成績が下がります」と予言したといいます。実際に、その選手は2カ月後に急に成績が悪くなり、9月にはとうとう2軍落ちになってしまいました。

 実際、イチロー選手本人はシーズン中は絶対に無理に練習したりはしません。5分ほどのフリーバッティングと本番以外にはバットを振ることはないそうです。それどころか、試合後も仲間と飲みにも行かず、ホテルで自宅から持参した足裏マッサージ器に両足を置いて、ひらすらコンディションを整えているそうです。

集中力を発揮するための「心・技・体」

 言うまでもなく、集中力は身体が資本です。集中にはものすごいエネルギーが必要です。

 前回「羽生善治さんが考える『集中力の基盤』とは?」で紹介した通り、羽生名人は重要な対局ともなると、「体重が3キロも減る」と言っているくらいものすごい体力を消耗するそうです。また、棋聖位を通算5期以上保持した永世棋聖の栄誉を持つ将棋の名人、米長邦雄さんは対局が終わると「頭の皮膚が真っ赤に染まっている」ことがあったそうです。

 集中力は脳の前頭葉前野を使います。ものすごい集中力が持続しているということは、前頭葉前野が活性化しているということです。額が真っ赤に染まったのも、極度にそこが活性化していたからでしょう。

 普通の人が集中できる時間の限度はせいぜい15分とか20分です。訓練によって長くすることはできますが、それでも数時間が限度、というのが多くの心理学者の見解です。

 ところが米長さんや羽生さんが参加するような将棋の名人戦ともなれば「2日」という長い、長い対局になります。その間、集中力を持続するのは並大抵の体力ではありません。前述の米長氏の頭の皮膚が真っ赤に染まっていても、羽生名人の体重が3キロ減っても、おかしくはないのです。

 スポーツ界では、「心技体」という言葉がよく使われます。「心技体」とは、精神力(心)、技術(技)、体力(体)のことです。勝負時には、この3つのバランスが取れていないと思ったような成績を残せないと言われます。

 集中力を発揮して勝負に勝たなければならない、あるいは業務を遂行しなければならない局面で、風邪をひいてしまった、体調が悪いでは、ベストなパフォーマンスは望めません。ちょっとしたケガ、故障でシーズンを棒に振る選手も多数います。

 身体を最善の状態に保つというのはプロとしては当然ですが、本当の「心技体」の意味を理解して、身体のコンディションを最高に保つようにしている人はそれほど多くないように思えます。集中力を発揮するためには、これはなくてはならないことです。

 米国メジャーリーグでは、下位組織としてトリプルA、ダブルAからルーキーに至るまで7つの階級に分かれるマイナーリーグなるものがあります。メジャーとマイナーでは契約金や給与も雲泥の差ですが、マイナーでも最下層ともなれば、その規律やしつけは軍隊なみに厳しいと言います。つまり、上に行くためには技術が一流なだけでなく、自分を律する強い心と優れた習慣が必要だということなのでしょう。

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