“その場でしか買えない”限定品が次々と登場するキャラクターイベント。ブロッコリーがモバイル決済を導入したのは、支払い方法が限定されがちなイベント会場内の「これ欲しい」「あれを諦めたくない」という来場者の思いに応えるためだった。
イヤフォンジャックに手のひらサイズの小さなカードリーダーを差し込むと、スマートフォンやタブレット端末がクレジットカード決済システムに早変わり――。こんなモバイル決済サービスが盛り上がりを見せている。
従来のカード決済端末のような多額の導入・運用コストがかからず、決済手数料が安価なことから(代表的なモバイル決済はいずれも3.24%前後)中小店舗を中心に採用が進み始めているが、メリットはそれだけではない。認証にモバイル回線を利用できることから、カード決済に必要な固定回線を用意するのが難しい屋内外のイベントや催事で利用できる点にも注目が集まっている。
この“持ち運びできるクレジットカード決済システム”という点に注目し、物販イベントでの活用を始めたのが、コミックやアニメ、ゲームなどのキャラクタービジネスで知られるブロッコリーだ。同社は、12月8日に開催されたカードゲームのファン向けイベント「カードゲーム感謝祭2013」で、PayPalが提供するスマートフォン決済サービス「PayPal Here」のテスト導入を開始。12月21日、22日の2日間にわたって開催されたキャラクターフェスティバル「ジャンプフェスタ2014」のブースでも、PayPal Hereを使ってクレジットカードによる支払いに対応した。
PayPal Hereを導入することで、ブロッコリーのキャラクター商品を購入する人たちの利便性はどのような形で向上したのか。また、ブロッコリーにとっての導入メリットはどこにあるのか――。同社マーケティング本部でホールセール課の課長を務める川上勇吾氏に聞いた。
―― PayPal Hereの導入を決めた背景を教えてください。
川上勇吾氏(以下、川上氏) キャラクターグッズの展示会では、“その場でしか買えない”限定品を用意します。こうした商品は人気が高く、お客様も長時間並んでくださるのですが、中には手持ちの現金が足りなくなって諦めざるを得なくなる場合もあるんですね。導入した理由の1つは、こうした事態を解消したいと思ったためです。ブロッコリーのブースでクレジットカードを使えるようにすれば、手持ちの現金をほかのブースの買い物に使えるようにもなります。
導入のメリットは、お客様だけでなく、グッズを販売する私たちの側にもあります。例えば毎回のイベントの売上金(現金)を扱うのが楽になります。扱う現金は大きな額になることもあり、それを定められた入金場所に運ぶために現金専門の輸送業者に依頼します。イベント会場でクレジットカード支払いに対応することで、そのコストを抑えることができます。
先進的なサービスを取り入れているというアピールにもなりますね。タブレット端末に装着したカードリーダーにクレジットカードを通していると、お客様から「面白いですね」と声をかけられることもあります。
―― なぜ、これまでイベント会場でクレジットカード決済システムを導入しなかったのですか。
川上氏 コスト面のハードルが高かったためです。年に数回というイベントのためだけに、多額の初期費用や月々の維持費をかけるわけにいかなかったという事情もありますし、導入までにかかる手間が煩雑だったのも理由の1つです。
―― 2回のイベントで採用したわけですが、どのような導入効果を感じていますか。
川上氏 “イベント会場でクレジットカードを使える”と思っていないお客様が多いためか、現時点ではそれほど出番がないのが正直なところです。ただ、クレジットカードを使えることが分かるとお客様も安心なさるのか、多少は財布のひもを緩めていただけるようです。
テスト導入したカードゲームのファン向けイベントでは、PayPal Hereを利用したお客様1人あたりのご利用金額が、総じて現金の方より2000円ほど高かったことが分かりました。これは安心していただいていることの表れではないでしょうか。ここでしか入手できない限定品を諦めずにすむのは、やはり魅力なのだと思います。
ブロッコリーが数あるモバイル決済サービスの中からPayPal Hereを選んだ背景には、サービスの提供元であるPayPalが、オンラインからオフライン(実店舗)、そしてオンとオフをつなぐものまで幅広い決済手段をそろえていることもあるようだ。
日本では、スマホを活用した実店舗向けクレジット決済サービスで知られるPayPalだが、海外ではECサイト向けのクレジットカード決済サービス「ウェブペイメント」が広く普及している。このウェブペイメントは、対応するECサイトでペイパルアカウントのIDとパスワードを入力すれば、クレジットカード番号の入力を省略し、さらにクレジットカード情報などを売り手に伝えることなく支払いを行えるという、ECサイト利用者の利便性を高め、安全性を確保するサービス。ECサイトの運営者側にも、クレジットカード決済の仕組みを短期間で安価にサイト内に実装できるというメリットがあることから導入サイトが増えているという。
さらにPayPalはこの秋、オンラインとオフラインをつなぐ新たな決済サービスを日本国内にも投入。無料アプリ「PayPal」に対応するスマホを持っていれば、実店舗で財布やクレジットカードを出さずに支払いができる“顔パス支払い”のキャンペーンを行った。海外では、店に着くまでにスマホからオーダーと支払いをすませておき、店に着いたら列に並ぶことなく商品を持ち帰れる「Order Ahead」というサービスも始まっている。
自社のECサイトだけでなく、イベントなどでキャラクターグッズを販売する機会があるブロッコリーは、オンライン、オフラインそれぞれの決済サービスを提供するPayPalと相性がいい。同社はさらに、ネットとリアルの融合を見据えた顔パス支払いやOrder Aheadといったサービスについても大いに関心があるといい、導入を検討中だという。
日本のキャラクタービジネスは世界の注目を集める一大市場であり、クールジャパンの旗印の下、海外市場に打って出る企業も増えている。世界190以上の国と地域でサービスを展開し、25通貨(※)に対応するPayPalは、そんな企業の海外進出も後押ししてくれそうだ。
※日本のペイパルアカウントを取得した人が利用できるのは21通貨
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