居心地のいい“よそ者”でいられる――徳島・神山町がITベンチャーに選ばれる理由滞在して分かった独特の文化(2/3 ページ)

» 2014年11月21日 08時00分 公開
[庄司智昭,Business Media 誠]

「全力でやれば、全力で協力してくれる」

 デジタルカーモデラーの寺田天志氏も、そんな神山町のスタイルに惹かれて移住した1人だ。メディアで神山町の情報を知り、「田舎にいながらコンピュータの仕事ができる場所があるのは楽しそう」と思ったのがきっかけだった。実際に神山町を訪問して大南氏の講演を聞くと、移住への思いがさらに高まったという。

 「人が良いと思った。神山で面白そうな人はちょっとアウトローな感じがして、面白いことをしたいと思っている。そのような人が地方にいることに価値があるなと。ときには『やったらええんちゃう?』とほっといてくれるし、その一方で、全力でやれば全力で協力してくれる関係が魅力的だった」(寺田氏)

photo 改修工事中の寺田氏が借りた古民家。離れもある広い土地だが、家賃は月1万円

 寺田氏が移住を決めたのは2014年4月。物件を探すために神山町を訪問したところ、友人の紹介で岩丸氏との飲み会が急に決まり、その次の日には物件を決めたという。いずれは子ども向けのイベントを開催するのが寺田氏の夢だ。

 「出身は東京だけど田舎に抵抗はなかった。町の人たちと打ち解けるまでは時間がかかるかもしれないけれど、そもそも『自分はアウェイ』という覚悟で入ってきたので、町のためにできることをひたすらやり続けることが大事かなと。将来的には、この家で子どもたちと3Dモデリングと3Dプリンタの技術を使った、ものづくりのワークショップを開催したいと思っている」

今までの暮らしを壊したくない人も、だが……

 サテライトオフィスの誘致や若者の移住を歓迎する風潮の中で、それに反対する人も少なからずいる。神山町で自営業を営む60代女性のAさんは「今はメディアに取り上げられて盛り上がっているけど、継続的な未来はまだ見えてこない」と語る。

 「神山に職はないから、若者は移住しちゃダメだよ! 農業なんて急に来た若者にできるわけがないし、ここに暮らしている老人は『IT、IT』と言っていてもよく分かっていないし、今までの暮らしを壊したくないんだから。企業や若者が集まって、たくさんのメディアに取り上げられるのはすごいけど、山からやってくる猿の被害にも町はお金を回してほしい」

 そう言い終わったあと、AさんはiPadを取り出して3人のお孫さんの写真を見せてくれた。「この子は今○○にいてね、優秀なのよ」とうれしそうに語るAさんに「なぜiPadを使い始めたのですか?」と聞くと、よどみなくこう答えてくれた。

 「ダンクソフト(神山町にサテライトオフィスを展開している企業)の方とお会いしてね、iPadを使っているのを見たらカッコよくてしょうがなくて。中途半端な若者が神山に移住してくるのは反対だけれど、カッコよくて新しいものは勉強したい。今は韓国のドラマにハマっていてね、この前は遠くにいる友達に連絡するためにLINEを始めたのよ」

 “iPadを使う60代”というのは最近ではよくある話かもしれない。しかし、家族や孫から勧められて使い始めるならまだしも、初めて会った人に勧められて使い始めるのは珍しい。イキイキと話すAさんを見ながら、移住した人たちが町に与える影響の大きさを感じた。

photo お孫さんの写真をiPadで見せてくれたAさん

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