有給消化率50%でも、年20日以上休める理由――未来工業(後編):“有給&残業”攻略法
業務改善のアイデアを1件500円で買い取るなど、珍しい社内制度を導入する未来工業。後編では休暇制度の取り組みに迫る。
前編で紹介したように、未来工業では「残業ゼロ」のほか、「退職は60から71歳の間で選択」「着たい服を着て仕事をする」「労働時間は自己申告」など、他社ではあまり聞かないような珍しい取り組みをしている。
筆者が驚いていると、「ほかの会社と同じことをやっていても、おもしろくないですしね」と返ってきた。業務改善のアイデアを1件500円で買い取るくらいだし、休暇制度もかなり充実しているのでは?
有給休暇消化率は50% その理由は
有給休暇の付与は最大で20日。「有給休暇を消化する人もいるし、あまり取得しない人もいる。消化率は50%程度」(未来工業)という。だが同社はこの現状をあまり問題視していない。
その理由は会社の“公休”にあった。未来工業は年間約140日の公休を設けている。通常、1カ月平均10日の公休があったとして、年間の公休はおよそ120日。それに比べると未来工業は約20日多い。1年間で取得できる有給休暇の日数並みだ。例えば年末年始は10連休、夏季休暇は12連休など。それに加え、祝日と土日の間に挟まれた平日は全社的に休みにし、連休とする。
「祝日と祝日の間に挟まれた平日は、毎年1、2回はある。こういう日は会社自体を休みにしてしまう。一部が休んで、一部が働くというのは不満が出てくるだろう。こういう公休を増やすことで、シーズンオフ料金で旅行に出掛けることもできるだろうし」(未来工業)
顧客にカギを渡してまで旅行に!?
毎年1回慰安旅行が行われる。1泊コースや日帰りコースなど旅行の企画は社員に任せる。社員の積み立てなどではなく、会社が1人に一律3万円を補助する。社員は行きたいコースを選択し、3万円の中でやりくりする形だ。
参加は強制ではなく、慰安旅行の際は会社自体が休み。旅行に参加しない社員は自動的にその日は休日となる。
5年に1度は海外旅行も企画している。前回はオーストラリア旅行で、500〜600人が参加した。こちらも積み立てなどの個人負担はなく、これだけでも会社の負担は1億円以上。さらに海外旅行を企画すれば、最低1週間会社が営業しないことになる。顧客からは「欠品した場合どうするのか」という問い合わせが来たこともあるという。そのときの対応として、3000件の顧客すべてに倉庫のカギを渡したという逸話もある。実際に数件の顧客が自ら倉庫に行って、納品書まで書いたそうだ。
商品を盗まれたりする心配はしなかったのだろうか。
「カギは継続的に取引している会社に渡してますので、あまり盗まれる心配もしません。それに倉庫を管理するなら、社員に留守番を頼まなければならなくなる。ほかの人は旅行に出たり、休んだりしているのに、自分だけ留守番じゃ不満だろうし。商品は1個数十円から数百円と単価が安い。そこで社員が対応して不満が出るくらいなら、商品を盗まれた方がいい」(未来工業)
歩くだけなのに電気は必要ない
こういった取り組みにお金をかけている裏には、徹底的なコスト削減もある。会社の廊下には電気がない。「歩くだけなのに電気は必要ない」と断言する。
また作業場の電気は壁のスイッチでオンオフするのではなく、蛍光灯に1つ1つひもが付いていて、個々人がそのひもをひっぱって消灯、点灯を小まめに行う。「こつこつとコストを減らす一方で、旅行などの大きな出費は惜しまない」これが未来工業のモットーだ。
休暇・残業対策に注力する理由
ここまで休暇や残業の対策や、自由度の高い制度作りに力を入れる理由は2つある。「社員の成長を図るため」と「社員のモチベーションを維持するため」。
「朝から夕方まで働き、それ以降も会社で仕事。それでは人間は成長しない。会社以外のところで、外で情報を得たり、人間の関係を築くことでその人の幅が広がってくる。そして社員に不満を持たせず、働くモチベーションになるような制度を作ることが、会社の利益につながると考えています」(未来工業)
確かに、社内の同じ人とばかりコミュニケーションをとっていても、新しい情報は得られないし、発想も広がらない。とはいえ、頭で理解していても、なかなか制度化に踏み切れないのが現実だ。
それでも、いい仕事をしてもらうために、社員のモチベーションを高める必要はあるはず。社員の利益が、会社の利益につながるという考え方は、やはり見習うべきだと感じた。
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