「書く」工夫で思考力が上がる:説明書を書く悩み解決相談室(2/2 ページ)
自分で考えることをしない……。そんな指示待ち族の相手に疲れたことはありませんか? 今回はビジネスシーンで重要な思考力の向上方法について、そのヒントを解説します。
説明書を書き直すワークで「ヌケ」への意識が磨かれる
というわけで、言われたこと、書かれていることをうのみにしない姿勢を持ち、その能力を磨きたいわけですが、そのために役に立つのが「説明書の穴を探しながら書く」という習慣です。
こういう目的に使う説明書は、出来の悪いものの方が役に立ちます。出来の悪い説明書はこれも書いてない、あれも書いてないと、あれこれ穴(ヌケ)だらけのことが多いので、探そうとするとすぐに成果が出ます(笑)。笑っちゃうような話ですが、成果が出るというのは、やる気を維持するためにも大事なこと。ですから遠慮無く出来の悪い説明書を使ってヌケているところを探すワークをしてみてください。
では、サンプルです。エネルギー問題が深刻になる昨今、次のような報道を見かけたことのある方も少なくないのではないでしょうか?
(例文)アメリカでは90年代からシェールガスが天然資源として注目されている。シェールガスとは、頁岩(けつがん、シェール)層から採取される天然ガスのことである。
天然ガスの大規模商業利用はもともと石油の副産物として産出されるガスから始まっており、技術的にも石油の探査・採掘技術を応用できることから、既存の天然ガス田は油田地帯に多く存在する。
これら在来型の天然ガス資源に対して、シェールガスは頁岩層から産出することから「非在来型天然ガス」と分類されている。このような非在来型天然ガスには他にメタンハイドレートなどがある。
2000年代に入ってアメリカでのシェールガスの利用が拡大しており、近未来における有力なエネルギー資源として期待されている。
ちょっとした企画書を書くと必要になる業界動向のセクションにはこの種の情報がよく盛り込まれます。大抵、何らかの「穴」があるので探してみましょう。
まずは、目についたキーワードを列挙すると
(1)シェールガス、天然ガス、石油、メタンハイドレート
(2)油田地帯、頁岩層
(3)石油の探査・採掘技術
といったところですが、(1)はエネルギー資源そのもの、(2)はその産出地域に関する情報、(3)は採掘技術に関する情報、ということで、表を作ることができそうです。
そんなわけで表を作ってみた一例が下記のようになります。
資源分類 | 産出地域 | 探査・採掘技術 | 将来性 | |
---|---|---|---|---|
在来型天然ガス | 石油を産出する油田地帯 | 石油用の技術を応用可能 | A | |
非在来型天然ガス | シェールガス | B 頁岩層 | C | D アメリカで2000年以降利用拡大。近未来の有力エネルギー源 |
メタンハイドレート | E | F | G |
いやあ、穴だらけですね(笑)。
シェールガス中心の文書ですから、E〜Gのメタンハイドレートについて書いていないのは仕方がないとしても、AやCが何もないのは気になるところですし、BやDについても詳しく調べればもう少し意味のある情報が出てきそうです。
実は、こういうふうに表を作るだけで書かれていない情報(ヌケ)が分かり、それを調べてみるきっかけが得られることが多いのです。文章で書かれた原文を10回読んでも分からないヌケに、簡単な表を作ろうとしただけで気付いてしまうのが不思議なところ。
こうしてヌケを発見するのは自分で考えるための第一歩、最も取っつきやすい第一歩ですので、ぜひ試してみてください。表を作るのは、分かりやすい説明書にもそのまま使えることが多く、無駄になることはまずありません。
ちなみに以下余談ですが、CとDの関連を調べると「C シェールガスの探査・採掘には石油用の技術はそのまま応用できない」ため、「シェールガスの採掘技術が進んだ2000年代以降にアメリカで利用が拡大した」ことが分かります。こうしてヌケの部分を調べると、断片的な情報の関連性が次々見えてきて「なるほどそういうことだったのか!」と理解が進むものです。
そうして、考えることを楽しむようになれれば、思考力を上げるための少なくとも大きな一歩を踏み出したことになります。
というわけで、出来の悪い説明書、いますぐ探してみませんか?
当連載では、「分かりにくい説明書を改善したい」というご相談を歓迎しております。「改善案のヒントがほしい」という例文があれば遠慮無く開米へお送りください(ask@ideacraft.jp)。今回のような連載での紹介は、許諾をいただいた場合のみ、必要に応じて内容を適宜編集したうえで行います。
なお、当記事についてのご意見ご感想ご質問等は「twitter:@kaimai_mizuhiro」宛でも受け付けております。中には記事では書ききれない情報もあります。物足りなく思った時はぜひ「twitter:@kaimai_mizuhiro」宛に質問を飛ばしてみてください。
公開セミナーのお知らせ
著者・開米瑞浩氏が講師となって「アイデア・思考を見える化」をテーマとするセミナーを開催します。
- 日時:2012年3月8日(木)10時〜17時
- 会場:名古屋(中部産業連盟)
- 概要:アイデア・思考を見える化させる 「読解力×図解力」スキルアップ研修(お申し込みもこちらから)
筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
関連記事
- 筆者別記事一覧:開米瑞浩関連記事
- 会社の方針がはっきりしなくても――部下が喜ぶストーリーで方針を伝える方法
最近、主任研修や管理職層の研修などをやっていると特によく聞かれるのが「会社の方針がはっきりしない!」ということ。しかし、この不況下で一寸先も分からないわけですから、明確な方針がないのも分かります。とはいえ、そのぼんやりとした方針を伝える必要はあります。どうやって伝えたらいいでしょうか。 - ビジネスパーソンの臨時収入、公募で執筆の武者修行
ビジネスパーソンが会社以外に収入を許されているのは何だろうか? 株式を売買したり、ギャンブルに興ずることもあろうが、ちょっと気が引ける。文章力を高めるのであれば公募にチャレンジしてみてはいかがだろうか。 - 文章力を上げる“写経”訓練法の3つのポイント
ビジネスパーソンは、トーク力と文章力の有無で選択できる道の広さが大きく変わります。前回はトーク力の改善法を説明しましたので、今回は単純にして破壊力抜群の写経訓練法の3つのポイントを紹介しましょう。 - 「超」文章法の7ステップ
どうしたら文章が上手に書けるのでしょうか。長い文章を書く方法と、短いリストをまとめる方法はよく似ているものです。ここで挙げるリストを参考にしながらトライしてみましょう。 - 成功前から「私はビッグ」で行動
「転職したい」「独立したい」「離婚したい」など、目標は見えているのに行動に踏み出せないことはありませんか? あなたのセルフイメージや価値観などがブレーキになっているのかもしれません。アクセルに変えるには? - 説明書は分かりやすければいいってもんじゃあない
説明書と言っても、プレゼン用から教育用までさまざまあります。誰向けの説明書かによって、分かりやすさを調整していかねばなりません。なぜでしょうか? 例に沿ってその訳を解説します。 - 「説明書が書けない」悩みにお答えします!
本連載では「説明書を書かなければいけないのにうまくいかない、誰か助けてくれえ!」と悩みを抱える方の相談に、文書化能力向上コンサルタントの開米がお答えします。 - 文章がスラスラ書けるようになる5つのステップ
情報量が多い説明書などの文章を書く時、知っておくと役立つ問題解決法を5ステップで紹介します。これを知っていればスラスラ文章が書けるかも? - 新技術を説明する――素材→加工→用途のフローに分ける考え方
前回に続いて、誰かにちょっとした複雑なことを説明するための文書のうまい書き方を紹介。今回は文章を幾つかの部品に分けて考えてみます。 - 分かりやすい説明書の極意は「同種のものを真っすぐ並べる」
複数の名詞が混在する説明文を、すっきり分かりやすくまとめるには? ――今回の説明書を書く悩み相談者は、ある本を執筆中の男性です。 - 「構造→性質→用途」がポイント――文章に頼らず説明する
専門的な内容が多く含まれる説明書などは、内容がある程度理解できなけれ改良するのもば難しいもの。文章を構造としてとらえてうまく情報を整理することが大切です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.