プロには素人の疑問が分からないもの:説明書を書く悩み解決相談室
ある分野に詳しくなると、気付かぬ間に素人には分からないような説明をしてしまうことがあります。その原因の1つが「専門用語を説明不十分なまま使ってしまう」ことです。
文書化支援コンサルタント、開米瑞浩の「説明書を書く悩み解決相談室」第17回です!
ある仕事のプロとして何年か経つと、すっかりその分野に詳しくなり「素人には何が分からないか、が分からない」という状態になることがあります。というより、素人向けにその分野の説明をする機会が年に何回もある、という人でもない限り大抵そうなります。
そんなときにはもう素人向けの説明書が「分かりやすいかどうか」を自分で判断するのは根本的に無理なので、どんどん人に見せて意見を聞きましょう。あるとき私も意見を求められました。
木下 開米さん、ちょっとこれ見てくれます?
開米 はいっ、何でしょうか。なになに……えーと、僕は不動産の事情は分かりませんよ?
木下 だから聞いてるんですよ。素人目で見て分かりにくいところを知りたいんです。
開米 あ、そういうことですか。では……。
プロトン経済研究所(仮名)が発表したマンション市場動向
2月の首都圏マンション発売戸数は2607戸で前年比28.8%減
→16カ月連続のマイナスを記録
在庫は14カ月ぶりに1万戸の大台割れ。
→3月も在庫処理優先の動きが続きそう
マンション販売在庫数は9532戸で、前月比1770戸減
→厳しい金融情勢などを背景に各社とも在庫処理を積極化
→しかしマンション値引きや大型の住宅ローン減税が、マンション購入への追い風となりつつある
首都圏のマンション契約率は62.5%
→好不調の分かれ目とされる70%を引き続き下回った
1戸当たりの価格は4850万円となり、前年比で1.2%上昇
→都心の物件が多かったことなどが理由
開米 これは何に使う資料ですか?
木下 ちょっとした経済セミナーに呼ばれてまして、最近のマンション市場動向について素人にも分かるように話をしてくれというんですよね。
開米 ははあ、なるほど。では、専門用語は知らないと思っていいですね?
木下 え? 専門用語なんて使ってましたっけ?
開米 例えば後半にある「契約率」って何ですか?
木下 あ、それは新築でその月に新発売されたマンションのうちで何%が売れたか、という率です。
開米 それは説明されないと分かりませんでしたよ。まあ多分そうだろうなという気はしましたが。
木下 あ、そういえばこれは業界用語か……。普通の人はこんな数字気にしませんからねえ。
というわけで、自分が普段使い慣れている専門用語はなかなか自覚しづらいものです。ぜひ、素人に見せて意見を聞いてみてください。
今回木下さんが示されたような文書は、あるテーマに関連する項目A、B、C……を個条書きで列挙する形で書いていました。こういう項目列挙型個条書きの資料でプレゼンをする機会も少なくないことと思いますが、悪くはないものの、もう一工夫したいところです。実は、木下さんの例のように、ある業界のプロが素人向けに話をするために、プレゼン用のスライドでよく使う項目列挙型の資料を作った場合によく見られる弱点が3つあります。
- 専門用語を説明不十分なまま使ってしまう
- 複数の項目(A、B、C……)どうしの関連性が見えづらい
- 数値に関する相場感覚が分かりづらい
今回は1点目の「専門用語を説明不十分なまま使ってしまう」という弱点について書きました。しかし、この事例は実はそれだけではまだまだ足りません。2点目、3点目についても工夫すべきです。それらについては次回、次々回で取り上げますので、どうぞご期待ください。
当連載では、「分かりにくい説明書を改善したい」という相談を歓迎しております。「改善案のヒントがほしい」という例文があれば遠慮無く開米へお送りください(ask@ideacraft.jp)。今回のような連載での紹介は、許諾をいただいた場合のみ、必要に応じて内容を適宜編集したうえで行います。
当記事についてのご意見ご感想ご質問等は「twitter:@kmic67」宛でも受け付けております。中には記事では書ききれない情報もあります。物足りなく思った時はぜひ「twitter:@kmic67」宛に質問を飛ばしてみてください。
公開セミナーのお知らせ
著者・開米瑞浩氏が講師となって「アイデア・思考を見える化」をテーマとするセミナーを開催します。
- 日時:2012年3月8日(木)10時〜17時
- 会場:名古屋(中部産業連盟)
- 概要:アイデア・思考を見える化させる 「読解力×図解力」スキルアップ研修(お申し込みもこちらから)
筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
- 公式Webサイト:http://ideacraft.jp
- メールマガジン登録:http://ideacraft.jp/cms/mm.html
関連記事
- 筆者別記事一覧:開米瑞浩関連記事
- 会社の方針がはっきりしなくても――部下が喜ぶストーリーで方針を伝える方法
最近、主任研修や管理職層の研修などをやっていると特によく聞かれるのが「会社の方針がはっきりしない!」ということ。しかし、この不況下で一寸先も分からないわけですから、明確な方針がないのも分かります。とはいえ、そのぼんやりとした方針を伝える必要はあります。どうやって伝えたらいいでしょうか。 - ビジネスパーソンの臨時収入、公募で執筆の武者修行
ビジネスパーソンが会社以外に収入を許されているのは何だろうか? 株式を売買したり、ギャンブルに興ずることもあろうが、ちょっと気が引ける。文章力を高めるのであれば公募にチャレンジしてみてはいかがだろうか。 - 文章力を上げる“写経”訓練法の3つのポイント
ビジネスパーソンは、トーク力と文章力の有無で選択できる道の広さが大きく変わります。前回はトーク力の改善法を説明しましたので、今回は単純にして破壊力抜群の写経訓練法の3つのポイントを紹介しましょう。 - 「超」文章法の7ステップ
どうしたら文章が上手に書けるのでしょうか。長い文章を書く方法と、短いリストをまとめる方法はよく似ているものです。ここで挙げるリストを参考にしながらトライしてみましょう。 - 成功前から「私はビッグ」で行動
「転職したい」「独立したい」「離婚したい」など、目標は見えているのに行動に踏み出せないことはありませんか? あなたのセルフイメージや価値観などがブレーキになっているのかもしれません。アクセルに変えるには? - 説明書は分かりやすければいいってもんじゃあない
説明書と言っても、プレゼン用から教育用までさまざまあります。誰向けの説明書かによって、分かりやすさを調整していかねばなりません。なぜでしょうか? 例に沿ってその訳を解説します。 - 「説明書が書けない」悩みにお答えします!
本連載では「説明書を書かなければいけないのにうまくいかない、誰か助けてくれえ!」と悩みを抱える方の相談に、文書化能力向上コンサルタントの開米がお答えします。 - 文章がスラスラ書けるようになる5つのステップ
情報量が多い説明書などの文章を書く時、知っておくと役立つ問題解決法を5ステップで紹介します。これを知っていればスラスラ文章が書けるかも? - 新技術を説明する――素材→加工→用途のフローに分ける考え方
前回に続いて、誰かにちょっとした複雑なことを説明するための文書のうまい書き方を紹介。今回は文章を幾つかの部品に分けて考えてみます。 - 分かりやすい説明書の極意は「同種のものを真っすぐ並べる」
複数の名詞が混在する説明文を、すっきり分かりやすくまとめるには? ――今回の説明書を書く悩み相談者は、ある本を執筆中の男性です。 - 「構造→性質→用途」がポイント――文章に頼らず説明する
専門的な内容が多く含まれる説明書などは、内容がある程度理解できなけれ改良するのもば難しいもの。文章を構造としてとらえてうまく情報を整理することが大切です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.