「ハバロフスクの最高気温は−5℃」――暖かいか寒いかを「相手に考えさせる」テクニック:説明書を書く悩み解決相談室(2/2 ページ)
全3回のシリーズでお伝えしてきた「プレゼン用スライドでよく使われる項目列挙型資料の弱点」。最終回は「数値に関する相場感覚が分かりづらい」ことを解決できるコツを紹介します。
そこで、相場とそれを踏まえた評価を伝えるための工夫が必要となりますが、数字がらみの情報についてはやはりグラフが効果的ですよね。ただし、グラフを書くのは面倒くさい。手間が掛かる。
どうしてもそこが問題になります。面積も必要ですしね。だから、グラフを書かなくても、
「2月の首都圏マンション発売戸数は2607戸で前年比28.8%減」
→16カ月連続のマイナスを記録するも、回復の兆し
のように「回復の兆し」と一言「評価」だけを追記して済ませられれば楽ですね。
時と場合によってそんな手抜きで済むこともありますが、手抜きだということは自覚しておきましょう。自覚して使う分には手抜きをしても一向に構いません。自覚してさえいれば、本当に必要な時には手を抜かずにきっちりやれるはずですから。
実際には、特にプレゼンテーションのように相手を目の前にして対話的に話ができる場合に評価が相手の腹に落ちるように伝えるためには、評価値をあえて書かずに、相手に考えさせるというテクニックが有効です。例えば、次のようなグラフを使います。
回復の兆し、という評価値をあえて書かずに空欄にしておくわけです。そして、こんなトークをします。
開米 さて、こちらのグラフが前年同月比からの水準の推移ですが、ごらんの通りずーっと低空飛行を続けていて最近では50%を切ってたんですね(相場値の説明)。ところが2月は28.8%減でした。ということはつまり……(十分、間を空ける)……そう、相場に回復の兆しが出てます(評価を示す)。
配布資料には書かず、見せずに「十分間を取って考えさせ、答を予測させて」から、評価を示すのがポイントです。人間の記憶というのは、「人から聞いただけの話」はどうしても忘れやすいのです。自分で考えて「これでいいのかな?」という少しの不安を感じた上で専門家に聞き、「あ、やっぱりこれでいいんだね」と確認したことはなかなか忘れません。
そのためには、覚えておいてほしい重要な情報はあえて書かずに、聞き手に自分で考えさせるように仕向けるのが非常に効果的なテクニックなのです。
プレゼンテーションをする場合に限らず、日常業務の中で、会社の廊下で後輩と立ち話をしながら教えるような場面でも「相手に考えさせる」というのは有効な手段です。ぜひ、試してみてください。
以上、3回シリーズで書いてきた「プレゼン用スライドでよく使われる項目列挙型の資料の3つの弱点」はこれにて完結です。皆さんが次回プレゼンをするときに、役に立つことを願っています。
当連載では、「分かりにくい説明書を改善したい」という相談を歓迎しております。「改善案のヒントがほしい」という例文があれば遠慮無く開米へお送りください(ask@ideacraft.jp)。今回のような連載での紹介は、許諾をいただいた場合のみ、必要に応じて内容を適宜編集したうえで行います。
当記事についてのご意見ご感想ご質問等は「twitter:@kmic67」宛でも受け付けております。中には記事では書ききれない情報もあります。物足りなく思った時はぜひ「twitter:@kmic67」宛に質問を飛ばしてみてください。
筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
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