しっくりくる見出しを思い付くための習慣とは:説明書を書く悩み解決相談室(2/2 ページ)
分かりやすい文章にするには、見出しを付けるといい――でも、肝心の見出しが思い付かなかったら? そんな場合は類語に注目して、言葉の意味を考えてみるといいでしょう。
「デジタル大辞泉」で「目標」と「予定」の意味を調べると、次のように書かれています。
目標
1)そこに行き着くように、またそこから外れないように目印とするもの。「島を―にして東へ進む」
2)射撃・攻撃などの対象。まと。「砲撃の―になる」
3)行動を進めるにあたって、実現・達成をめざす(※)水準。「―を達成する」「月産五千台を―とする」「―額」
(※)太字は編集部
予定
行事や行動を前もって定めること。また、そのことがら。「会議の―を入れる」「旅行は来月に―している」
目標の3)「めざす」という表現に注目してください。めざすというのは、人の意志を表す言葉です。これが、予定の方には入っていません。
従って、「そこに到達しようとする意志があること」を表現したい時には目標という言葉がふさわしいと言えます。
例1:今年中に、フルマラソンで3時間を切るのが目標です
これを予定にするとおかしくなりますね。一方、
例2:その資材は昨日A社に発注しました。5日後に納品される予定です
納品されるのは納入業者A社の仕事であって、話し手が努力する仕事ではありません。例2の話し手は、当然5日後に納品されると思っているので、目標ではなく予定がふさわしいです。一方、同じような状況でも目標がふさわしい場合もあります。
例3:えーっと、実はその資材ちょっと今品薄でして、ほとんどどの業者も在庫持ってないんですよ。それで今A社に、5日後を目標に集めさせてます。それが駄目そうなら次の手を考えなきゃいけません。
この場合は話し手が「5日後に当然納品される」とは思っていません。それは「自分が意志を持って努力しなければ達成できないこと」と認識しているので、目標の方がふさわしく、予定とは言えません。
そう考えると、
日本橋を出発して1日目は神奈川で宿泊する予定です
という文も、予定と目標のどちらがいいかは、話し手の認識次第です。「1日目は神奈川で宿泊する」というのが、「ほぼ確実に達成できる楽な水準であって、何の心配もしていない」のであれば予定という意識で話すでしょう。
逆に「楽ではないけれど好条件に恵まれて、かつサボらなければ達成できる」という水準よりも難易度が高いと認識している場合は、目標の方がふさわしくなります。
つまり、実際には
日本橋を出発して1日目は神奈川で宿泊するのが目標です
日本橋を出発して1日目は神奈川で宿泊する予定です
では、少し意味が違ってきます。
こんなふうにちょっとした類義語の微妙な意味の違いを少しでも考えるようにしておくと、少なくとも「目標と予定」という2つの用語については適切な使い分けができるようになります。もちろん、これをするためには、
「予定の類義語って何だろう……」
と、知っている言葉を引き出す必要があります。それによって、単に知っているだけの言葉が、いつでも引き出して使える言葉になるのです。
それだけではなく、普段これをやっていると、言葉の微妙な意味の違いに敏感になり、初めて見た言葉についても類義語を見つけるのが簡単になります。
もちろん、例えば今日1日だけ5分使って「目標と予定の違い」を考えてみたところで、冒頭で出た「ピッタリはまる言葉が思い付かなくてうまく書けない」という悩みは解決しません。
でも、継続は力なりです。1日5分だけでも100日やっていれば違ってきます。特に、普段人が仕事上で書く業務文書というのは「同じパターンが何回も出てくる」ことが多いもの。1日5分でも100日もやっていると、同じパターンとして応用が効くものが増えてくるわけです。
そんなわけで、1日5分、類義語を探して違いを考えることを習慣にしてみてください。
当連載では、「分かりにくい説明書を改善したい」という相談を歓迎しております。「改善案のヒントがほしい」という例文があれば遠慮無く開米へお送りください(ask@ideacraft.jp)。今回のような連載での紹介は、許諾をいただいた場合のみ、必要に応じて内容を適宜編集したうえで行います。
当記事についてのご意見ご感想ご質問等は「twitter:@kmic67」宛でも受け付けております。中には記事では書ききれない情報もあります。物足りなく思った時はぜひ「twitter:@kmic67」宛に質問を飛ばしてみてください。
筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
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