書く力もスポーツと一緒――ビジネスにおける「パワー」と「テクニック」の関係:説明書を書く悩み解決相談室(2/2 ページ)
スポーツの世界ではパワーとテクニックの掛け算で力が決まります。実はビジネスにおいてもこの2つの要素が必要で、小手先のテクニック一辺倒ではスキルは身に付きません。
血液型別の恋愛占いはテクニックかどうか
「あなたと彼の血液型別・狙った男の落とし方」という感じの本を見かけたことがありますが、血液型別なら4×4の16通り。これが星座別だと12×12で144通りになり、それに県民性をかけると6000通りを越えます。とても覚える気にはなれませんね。この種の方法は状況が極めて限定されている時にだけ役に立つもので、一種のカンニングのようなものなのです。
この連載でもいくつか「テクニック」を扱ってきました。第1回の「背景・問題・理想・解決策」、第2回の「素材・加工・用途」、第5回の「構造・特徴・性質・用途」などが、実際の職場でも現れがちな問題に対応できるテクニックです。
この種のテクニックはすぐに使えるように見えることもありますが、実際には問題は毎回微妙に違った形で現れるもので、パターン丸暗記では解決しません。
「地味な基本動作」の反復はビジネススキルのパワーになる
結局のところ、長期間の地道なトレーニングはどこかで必要になります。ビジネススキルにおいても、スポーツにおけるパワーのように、決して短期間で爆発的に伸びることはない、少しずつ積み上げていくしかない力が存在するわけです。ですから、この連載の第7回でも書いた「地味な基本動作」を大事にしてください。
一見回り道に見えても、最終的にはその方が成果が出ます。そもそも、パワーとテクニックというのは対立するものではありません。
例えば野球でヒットを打つためには、「バットを振れる筋力」が先に必要です。その筋力がなければ「テクニックを身に付けるための練習」さえできません。
また、例えば水泳のテクニックはいくら覚えても野球には使えません。しかし、水泳で鍛えた筋力は野球を含むどんなスポーツをする場合も役に立ちます。
パワーとテクニックの間にはそんな関係があるんです。パワー系のトレーニングは1日や2日では成長が目に見えないし、地味で退屈しがちです。しかしそれがなければテクニックは成立しません。
「説明書を分かりやすく書く力」の場合、テクニックというのは「背景・問題・理想・解決策」のようなよくあるパターンに関する知識です。一方、第7回で書いた「分解・分類・見出し付け」を習慣にすると、パワーに該当する力が付きます。どうしてもテクニックの方が即効性があるように見えますが、小手先のテクニックに走らず、地味な基本動作を忘れないようにしたいものです。
当連載では、「分かりにくい説明書を改善したい」という相談を歓迎しております。「改善案のヒントがほしい」という例文があれば遠慮無く開米へお送りください(ask@ideacraft.jp)。今回のような連載での紹介は、許諾をいただいた場合のみ、必要に応じて内容を適宜編集したうえで行います。
当記事についてのご意見ご感想ご質問等は「twitter:@kmic67」宛でも受け付けております。中には記事では書ききれない情報もあります。物足りなく思った時はぜひ「twitter:@kmic67」宛に質問を飛ばしてみてください。
開催セミナーのお知らせ
企画書や報告書をはじめ、誰が見ても“分かりやすい資料づくり”でお悩みの方へ、著者・開米瑞浩氏が講師となって「アイデア・思考を見える化させる「読解力×図解力」 スキルアップ研修」を実施します。
日時:2012年7月27日(水)10時〜17時
概要:アイデア・思考を見える化させる「読解力×図解力」 スキルアップ研修
筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
- 公式Webサイト:http://ideacraft.jp
- メールマガジン登録:http://ideacraft.jp/cms/mm.html
関連記事
- 筆者別記事一覧:開米瑞浩関連記事
- 会社の方針がはっきりしなくても――部下が喜ぶストーリーで方針を伝える方法
最近、主任研修や管理職層の研修などをやっていると特によく聞かれるのが「会社の方針がはっきりしない!」ということ。しかし、この不況下で一寸先も分からないわけですから、明確な方針がないのも分かります。とはいえ、そのぼんやりとした方針を伝える必要はあります。どうやって伝えたらいいでしょうか。 - ビジネスパーソンの臨時収入、公募で執筆の武者修行
ビジネスパーソンが会社以外に収入を許されているのは何だろうか? 株式を売買したり、ギャンブルに興ずることもあろうが、ちょっと気が引ける。文章力を高めるのであれば公募にチャレンジしてみてはいかがだろうか。 - 文章力を上げる“写経”訓練法の3つのポイント
ビジネスパーソンは、トーク力と文章力の有無で選択できる道の広さが大きく変わります。前回はトーク力の改善法を説明しましたので、今回は単純にして破壊力抜群の写経訓練法の3つのポイントを紹介しましょう。 - 「超」文章法の7ステップ
どうしたら文章が上手に書けるのでしょうか。長い文章を書く方法と、短いリストをまとめる方法はよく似ているものです。ここで挙げるリストを参考にしながらトライしてみましょう。 - 成功前から「私はビッグ」で行動
「転職したい」「独立したい」「離婚したい」など、目標は見えているのに行動に踏み出せないことはありませんか? あなたのセルフイメージや価値観などがブレーキになっているのかもしれません。アクセルに変えるには? - 説明書は分かりやすければいいってもんじゃあない
説明書と言っても、プレゼン用から教育用までさまざまあります。誰向けの説明書かによって、分かりやすさを調整していかねばなりません。なぜでしょうか? 例に沿ってその訳を解説します。 - 「説明書が書けない」悩みにお答えします!
本連載では「説明書を書かなければいけないのにうまくいかない、誰か助けてくれえ!」と悩みを抱える方の相談に、文書化能力向上コンサルタントの開米がお答えします。 - 文章がスラスラ書けるようになる5つのステップ
情報量が多い説明書などの文章を書く時、知っておくと役立つ問題解決法を5ステップで紹介します。これを知っていればスラスラ文章が書けるかも? - 新技術を説明する――素材→加工→用途のフローに分ける考え方
前回に続いて、誰かにちょっとした複雑なことを説明するための文書のうまい書き方を紹介。今回は文章を幾つかの部品に分けて考えてみます。 - 分かりやすい説明書の極意は「同種のものを真っすぐ並べる」
複数の名詞が混在する説明文を、すっきり分かりやすくまとめるには? ――今回の説明書を書く悩み相談者は、ある本を執筆中の男性です。 - 「構造→性質→用途」がポイント――文章に頼らず説明する
専門的な内容が多く含まれる説明書などは、内容がある程度理解できなけれ改良するのもば難しいもの。文章を構造としてとらえてうまく情報を整理することが大切です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.