社長の「何のために必要なの?」に的確に説明できますか?:説明書を書く悩み解決相談室(2/2 ページ)
説明書を書く場合、どこまで詳しく書くべきか、記述レベルの見極めが難しいことがありますよね? そんなときは、相手の行動を意識することが重要なのです。
ビジネス文書も同じ、読み手の行動を意識しよう
「相手の行動を意識する」のは非常に重要です。直接本人に確認できない場合でも、それをイメージして書くだけで説明書が読者にとって非常に分かりやすくなるケースがよくあります。天気予報の話の例では、佐藤さんについて「こんな奴はいねえよ(笑)」と思えますが、あれは日常生活の場面だからそう見えるだけです。現実のビジネス文書では「雨が降るかどうかをまず知りたい人に向かって気圧の谷の話を始める」ような文書は掃いて捨てるほどあります。
例えばこんな例はいかがでしょうか。
【例文1】NxTester(仮名)は、一般的な事務所で多くのPCからのアクセスが集中するファイルサーバにおいて、クライアントPCの増加にともない、ネットワークとサーバの性能がどの程度変わるかを推計することができるツールです。NxTesterは実環境におけるクライアントPCからのファイル要求へのサーバの応答性能を実測し、その実測値を元にしてシミュレーションを行うことができ、将来のクライアントPC増加時の性能変化を高精度で予測することが可能です。
仮に会社のIT環境の責任者が、「このツールが欲しい」と思い、予算を出してくれるように社長に交渉するとしましょう。すると、社長と責任者の間でこんな会話がありそうです。
社長 何のために必要なの?
責任者 ファイルサーバの性能を測るためです。
社長 ……で?
本来ここで責任者氏は「性能を測ってどうするのか?」を、社長の判断が可能な形で説明しなければなりません。それができないと「……で?」と言われてしまいます。
最終的に相手がどんな行動を取るのかをイメージする
会社も社長もいろいろですから、例外もあることでしょう。しかし、少なくとも「自分自身はITインフラのプロではない」社長が「ファイルサーバの性能測定」に関心を持つとは思われません。
社長が関心を持つのは、「社内の適切な業務環境を維持することと、そのコスト」である場合が多いでしょう。つまり、責任者は、「NxTesterがあれば、ファイルサーバの増強計画を精度良く立案できる」ことを言うべきでした。「増強計画」という言葉があれば、「業務環境の維持」と「そのコスト」に直結する話なのは理解できます。それが精度良く立案できるなら、検討する価値はあると思ってくれることでしょう。
最終的に相手がどんな行動を取るのかをイメージするのが大事なのは、この事例でお分かりいただけるでしょうか。この話の場合、社長が気にする情報は基本的には計画段階のことで、実測や予測の技術的細部には関心がないはずです。そのため、社長に話をするなら例文1も次のように上の図の逆順で書き直すべきです。
【例文2】一般的な事務所で多くのPCからのアクセスが集中するファイルサーバの性能は、業務効率に直結します。NxTesterは、ファイルサーバの性能を維持向上させる増強計画を精度良く立案するための最強の武器となるツールです。
ファイルサーバの増強計画を立てるためには、クライアントPCが増えたときに性能がどのように変わるかを予測しなければなりません。その予測を高精度で行うためには、予測の根拠となる現在の性能を実測しなければなりません。NxTesterはそのために実環境におけるクライアントPCからのファイル要求へのサーバの応答性能を実測し、その実測値を元にしてシミュレーションを行うことができるため、将来のクライアントPC増加時の性能変化を高精度で予測することが可能です。
この書き方なら、社長の関心に沿った情報が最初の3行に集中しているため、興味を持って読んでもらえることが期待できます。例文1のような書き方で社長に見せるのは、田中さんに気圧の谷の話をするようなレベルの間違いです。
しかし、このレベルの間違いをしてしまっている説明書は非常に多いのです。日常生活でこの失敗をすると目立ちますが、仕事の話になるとなかなか目立たないのでしょう。
この種の間違いを防ぐためには、相手が何をしようとしているかを考えることが有効です。ぜひ、社内のさまざまな業務文書を見直してみてください。
なお、今回の出発点にした「どこまで詳しく書くべきかの見極めが難しい」悩みについて、おおまかな原因を再掲すると下記3つでした。
- 相手の関心事(目指す行動)が分かっていない
- 相手の知識レベルが分かっていない
- 自分自身が問題の性質をよく分かっていない
このうち今回は1つ目の「相手の関心事(目指す行動)が分かっていない」について書きましたので、次回は残る2つを解決する方法について書く予定です。どうぞご期待ください。
当連載では、「分かりにくい説明書を改善したい」相談を歓迎しております。「改善案のヒントがほしい」例文があれば遠慮無く開米へお送りください(ask@ideacraft.jp )。今回のような連載での紹介は、許諾をいただいた場合のみ、必要に応じて内容を適宜編集したうえで行います。
当記事についてのご意見ご感想ご質問等は「twitter:@kmic67」宛でも受け付けております。中には記事では書ききれない情報もあります。物足りなく思った時はぜひ「twitter:@kmic67」宛に質問を飛ばしてみてください。
筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
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