ベース構造を踏まえて「発送電分離の副作用」を考える:説明書を書く悩み解決相談室(4/4 ページ)
「問題」に対しては「ベース構造」を踏まえて「解決策」を考え、その「副作用」まで認識した上で解決策を選ぶ必要があります。この考え方で「発送電分離」という問題を解いてみましょう。
余談:発送電分離の副作用とは何か
さて、本連載はあくまでも「説明する」手法がテーマなので、ここまでで本題は終わりです。ここから先は余談ですが、図3の補足説明をしておきましょう。
「発送電分離をすると、燃料調達段階で交渉力が低下する恐れがある」というのは要するに各発電会社がバラバラに石炭や天然ガスを買いに行くのでは「まとめて買うから安くしろ」という交渉がしづらくなるということ。ちなみに、火力発電において日本ではLNG(液化天然ガス)が石炭と並ぶ主力になっていますが、実はLNGが産業として成立し得たのは東京電力という買い手があったからです。
LNGは輸出側にも輸入側にも大規模なプラントが必要なため、長期安定取引が見込める買い手が存在しないことにはそもそも産業として成立できませんでした。その「長期安定取引が見込める買い手」として世界のLNGビジネスを作って来たのが東京電力であり、そのLNG火力が日本の2011年度発電電力量の約40%を占めています(経済産業省「電力調査統計」より)。
発送電分離によって電力会社を小規模化すると、こうした「規模の経済」が効く面においては逆効果になりうるわけです。
次に「発送電分離をすると、顧客選別が進展する」というのは、要するに安く買える客と高く買わざるを得ない客に二極化するということです。例えば個人的な話ですが私が昔住んでいた家は田んぼの中の一軒家で、そこまで電柱を立てて電線を引き、メンテナンスをするだけでも電力会社のコスト負担は相当なものだったと思いますが、市街地のマンション住民と料金は変わりませんでした。完全に自由化したらこんなことはありえません。ちなみにアメリカでは電力自由化を進めた州のほうが電気料金は高くなっています。
「インフラ投資の縮小」とそれに伴う「環境影響の拡大」「電力品質の低下」についてはさすがにこれ以上書くと長くなりすぎるので省略します。
いずれにしても「解決策」には必ず「副作用」があるものです。それを明示せずに主張を通そうとするような議論を見逃すと、あとあと高いツケを払わされる結果を招きます。そうした失敗をしないための1つの有効な方法が「ベース構造」を踏まえて「副作用」を考える習慣をつけることです。一度、試してみませんか?
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筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
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