意外とできていない!? 最初に「ベネフィット」を明らかにして説明せよ:説明書を書く悩み解決相談室(2/2 ページ)
だいたい世の中のほとんどは、すでにある「ターゲット」の改良であって、まったく新しいターゲットを作る話はなかなかありません。そのターゲットの一部に変更を加えるケースが多いのですが、ここで「説明」の必要が出てきます。今回は、科学研究費の申請書を例に説明します。
まずは「ベネフィット」を明らかにせよ
さて、ここであらためて最初の文面を見てみますと、
【研究目的(概要)】
エンジンの出力を上げるために過給器を使う方法は以前から実用化されているが、従来は大型のエンジンにさらなる高出力を積み上げる用途が中心だった。そこで、本研究では小型エンジンに新方式のエッジスクロール機構と耐熱材料を採用したターボ過給器を搭載し、市街地走行時の燃費を改良できる制御アルゴリズムの開発を試みる。(152字)
「ターゲット」とその両側の項目、つまりベネフィットとファンクションがいまいち不明瞭な書き方になっています。そこで、それが明瞭になるように書き直してみましょう。
【研究目的(概要)】(改善案)
小型エンジンの熱効率を改善しつつハイパワー化できれば、自動車の燃費改良・軽量化を達成できる。そのために有力な技術がターボ過給器だが、従来実用化されてきたのは(A)大型のエンジンにさらなる高出力を積み上げるスポーツ走行用途であり、(B)小型エンジンでの市街地走行を想定した研究はなされていない。そこで本研究では(B)用途を想定し、(1)エッジスクロール機構と耐熱材料を採用したターボ過給器、および(2)市街地走行用の制御アルゴリズム――を開発する。(223字)
いかがでしょうか。一般的なセオリーとしても、「Aという目的のために、Bという手段を取る」というような情報を書く時は、目的を先に明示するほうが理解しやすくなります。「目的」というのはつまりベネフィットです。誰にとってのどんなベネフィットをもたらすものなのか、それを早めに明らかにすることで、その話題に初めて接する人にとって分かりやすくなる場合が多いのです。
ところが、そのような形で書かれていない説明文が、世の中には少なくありません。そんなときには、2番目の図のようなフレームワークで「ターゲット」の両側の項目を整理してみてください。「ベネフィット」と「ファンクション」を切り分けておけば、それを並べて書くだけで説明文になります。このフレームワークは科学研究に限らず応用できるものです。ビジネス企画においても役に立ちますので、ぜひやってみてください。
当連載では、「分かりにくい説明書を改善したい」相談を歓迎しております。「改善案のヒントがほしい」例文があれば遠慮なく開米へお送りください(ask@ideacraft.jp)。今回のような連載での紹介は、許諾をいただいた場合のみ、必要に応じて内容を適宜編集したうえで行います。
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筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
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