夏野氏は、マスコミに「ドコモは落ち目だ」「純増シェアが落ちっぱなしだ」と書かれることがあると話す。しかし、ほかのキャリアが端末をどのような価格で売っているか考えるべきだとする。
実際、ドコモの最新機種は概してauやボーダフォンよりも価格が高い。最近でいうと、auのハイエンド端末「W32H」は2万円台前半。「W32S」は1万円台なかばで販売されていた。一方でドコモの90xiシリーズの機種は、3万円台後半で販売されることも珍しくない。ドコモの端末は値崩れするのも遅く、ボーダフォン端末が発売2カ月で1円に落ちるケースもあるのに比べ、ドコモの「P901i」などは発売から半年以上たっても都内で1万7000円で販売されていた(8月26日の記事参照)。
夏野氏は、純増シェアというものは短期的なキャリアの施策や戦略が大きく関与するものだとして、累積シェアや企業の利益率にも注目すべきだとアピールする。「ドコモも最新の携帯を0円で販売すれば、シェアは上がる」。端末価格値下げがそのままシェアアップにつながるかはともかく、ドコモが端末を高い価格で販売しながら一定シェアを占めていることは確かだ。
夏野氏は、このように端末を値下げせず販売するか、ある程度値下げするのかのさじ下限がマネジメントのポイントだと話す。ドコモは2004年度の連結業績で、営業収益は4兆8446億円、営業利益は7842億円を計上した(5月10日の記事参照)。夏野氏は5兆近い収益と高い利益率に胸をはり、「利益を半分落とす覚悟をすれば、もうちょっと安くする戦略はあり得る」とした。
会場では、講演中や講演後に夏野氏に多くの質問が投げかけられた。その中の1つに、携帯の新規参入事業者をどう見ているかというものがあった。
新規参入すると見られる事業者のうち、イー・アクセスなどは「音声は現状の携帯キャリアが提供する価格の約半分を目指す」と、その意気込みを話している(2月10日の記事参照)。このため、既存キャリアは“安売り合戦”を仕掛けられるのではないかと見る向きもある。
だが夏野氏は「安売りで勝負を仕掛けてくる限りは、脅威ではない」と一笑に付す。「価格だけなら、いつでも下げられる」。ただし、新規参入事業者がドコモが考えつかなかったサービスを思いつき、それを実行に移してくる可能性もある。「そのときは、新規事業者は脅威になる」と夏野氏は慎重な姿勢を見せた。
「大事なのは初期投資コストより顧客獲得コスト」 |
携帯キャリアの新規参入が話題になる中で、新規事業者が「既存事業者より低コストでサービスを始められる」とアピールすることがある。通信業界のテクノロジーは進歩しているから、より低コストでより多くの回線を収容できる基地局は絶えず生まれてくる。夏野氏は「既存事業者が1兆円かけてやったところを、我々は数千億円でできる――と威張っている人もいるようだが」と、暗にソフトバンクの孫正義社長を揶揄する。 「それよりも、最大のコスト要因は顧客獲得コストだ。各社とも会計上の処理が異なるので単純に比較はできないが、ドコモでいえば毎年1兆円以上のコストがかかっている」。その意味では、設備投資費用をうんぬんするよりも顧客のロイヤリティを上げ、チャーンレート(自社ユーザーがほかのキャリアに乗り替える率)を下げることのほうが重要だとした。 |
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング