NTTドコモが取り組む次世代通信方式、HSDPAの実態が少しずつ明らかになってきた。既にプレス向けに試作機を発表したほか(2月1日の記事参照)、スペインのバルセロナで開催された「3GSM World Congress 2006」でデモ展示も行っている。
2月22日に東京で開催された「FMCフォーラム」セミナー会場では、ドコモの常務執行役員で研究開発本部長である歌野孝法氏が登場。同社の通信システムについて、技術的側面から解説した。
歌野氏は会場でHSDPA端末のスライドを示しながら、大きさは135cc、重さも127グラムとさほど目立って大きくないことをアピールする。「902i相当の筐体に、無線の部品が入る。速度は下り最大3.6Mbpsだ」
規格としては、3GPP Release.5のカテゴリー6に対応した。HSDPAは理論上「下り最大14Mbpsを実現する技術」と紹介されることが多いが、カテゴリーによって速度が異なる。今回ドコモが対応したカテゴリー6の場合、速度の上限は3.6Mbpsだ(2005年6月2日の記事参照)。
歌野氏は、カテゴリーと速度の上限の一覧表を示しながら「このへん(=カテゴリー10)まで行くためには部品の改良も必要だ」と話す。「速度が出るといっても、消費電力の問題から通話時間や通信時間が少ないというのでは、ユーザーに受け入れられないだろう」。ただしノートPCに接続するタイプのカード型HSDPA端末なら、比較的容易にカテゴリー10にも対応できるのではとの見方を示した。
歌野氏はまた、最大3.6MbpsのHSDPA端末のスループット特性を示したグラフを示す。それによると、基地局から離れたセル端でも1Mbps程度のスループットが出るという。
もっとも、近い場所(同一基地局内)に2人のHSDPAユーザーがいれば、単純に考えて通信速度は半分になる。HSDPAは無線状態のよいユーザーにより高速な速度を割り当てるなどの仕組みはあるが、ある程度「速度のとりあい」は発生する。
それでは実際に、ユーザーはどの程度の速度でHSDPAの通信を利用できるのか。歌野氏は「この部分は分からない」と話す。「5人のユーザーがいたら、あるユーザーの端末側のスループットが(W-CDMAの最高速度である)384Kbpsを下回ってしまい、(ネットワーク側で)『W-CDMAに切り替える』という判断をするかもしれない」。このあたりは、ユーザーの動向を見ながらパラメータを調整し、どうトラフィックをマネジメントするかという判断をしていくことになる。
ただ、歌野氏はそれほど心配はしていない、とも話す。
歌野氏によると、ドコモは1つの基地局を6つのセクターに分割している。このセクターごとにユーザーを収容することになるが、「5MHz幅ごとに3.6Mbpsのスループットが3本入る」(歌野氏)という。ちなみに、実際にはドコモは2GHz帯に20MHz幅を持っている(2004年9月6日の記事参照)。制御用の帯域も必要なため全てのリソースを活用できるわけではないが、最大で上記の5MHz幅×4の収容能力があるという。
同氏はセミナーで、高度化された次世代通信技術にしばしば採用される要素技術「MIMO」にも言及した。「MIMOは10年ぐらい前から言われている技術だが、非常に重要」。複数のアンテナを利用して信号を多重化させる技術だが、これによって無線帯域を増加することなく伝送速度を向上できると強調する。
ただし、複数の送信アンテナから信号を送り、これを分離したかたちで受信して複合するのは「ものすごい演算処理が必要」であり、端末側で行うのはなかなか難しいという。「従来のチップでは処理できない。それこそ“1架”(=処理用の端末をラックに載せて並べる)のレベル。すごい熱だ」
とはいえ、ドコモが演算量削減型の「QRM-MLD法」を考案するなど、対策は講じている(2004年8月11日の記事参照)とも付け加える。MIMOは、徐々に現実的なものになりつつあるとした。
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