2月1日に、次世代の通信方式「HSDPA」に対応した試作機の開発を発表した(2月1日の記事参照)NTTドコモ。同社は2月13日からスペインのバルセロナで開催される「3GSM World Congress 2006」での展示を前に、HSDPAの技術デモを行った。
HSDPAとは、High Speed Downlink Packet Accessの略称だ。高速なパケット通信を行う次世代技術の1つで、3.5Gとも呼ばれている。文字通りDownlink、つまり下り方向のパケット通信を高速に行うことを主眼とした技術だ。HSDPAの次には「HSUPA」(High Speed Uplink Packet Access)という上り方向の通信を高速化する技術の導入も控えている。
HSDPAの特徴は、基地局と端末間の電波の状態に合わせ、最適な変調方式を適宜選択する適応変調方式を採用している点にある。これにより、電波の受信状態が良好な場所では高速に通信でき、受信状態が悪いところでも速度は落ちるものの安定した通信を確保する。また、自動再送要求に誤り訂正符号を加えて送信する「ハイブリッドARQ」を採用し、送信側からのパケット再送回数を減らして通信速度を向上させる。
NTTドコモが採用したのはHSDPAの「3GPP Release.5 カテゴリー6」という規格で、下りのデータ転送速度は最大3.6Mbpsだ(2005年6月2日の記事参照)。W-CDMA方式を採用した現行のFOMA端末では、理論上の下り最大データ転送速度は384kbpsなので、速度はほぼ10倍に向上する計算になる。
2月1日の試作機の開発発表では、富士通、NECおよびMotorola製の3つの端末が紹介された。いずれもW-CDMA対応機種のボディのままHSDPAにも対応させたものだ。富士通製端末は「F901iS」と、NEC製端末は「N902i」と、Motorola製端末はGSM対応の「V3X」(RAZR)と外観は同じ。重量が増えたり、発熱が大きくなったりすることもないという。なお、高速な無線通信を連続して行うと消費電力は高くなると予想されるが、今回はその点に関する情報は得られなかった。
デモは、N902iベースのHSDPA対応端末を用い、基地局とは有線接続した状態で行われた。まず、データ転送速度の違いが簡単につかめるよう、サイズの異なる2つの動画ファイルを再生した。データは3GPP形式のiモーションファイル(拡張子は.3gp)で、ファイルサイズはW-CDMA用が434Kバイト(64kbps)、HSDPA用は1863Kバイト(512kbps)だった。
W-CDMAではビットレートが64kbpsと低いため、ブロックノイズが散見される上、コマ落ちも発生していた。一方、ビットレート512kbpsのHSDPAでは、動きの激しいシーンでも再生は非常にスムーズだった。
さらに、実際の利用環境とは異なるものの、PCからHSDPA対応試作機にFTPでデータを転送するデモも実施した。Windows XP上のFTPクライアントを用いて、5MバイトのデータをHSDPA対応試作機へ転送したところ、所要時間は約14秒だった。デモ中の最大データ転送速度は3254.8kbps(約3.3Mbps)を記録した。
ただ、先にも述べたとおり、今回のデモは有線接続で行われたという点には注意したい。つまり、最も理想的な電波状態でのデモである。無線で接続した環境では、基地局に接続するユーザーも多い上、ノイズなどの影響もあるため、多くの場合データ転送速度は3.6Mbpsよりも遅くなる。
ドコモは実際のHSDPAサービス開始を「2006年度第2四半期」とアナウンスしている。つまり、遅くとも今年の9月までには始まるということだ。NTTドコモ広報部の話では、最初のサービスは「おそらく東京、名古屋、大阪などの大都市圏から提供を始めることになる」という。ただ、「当初は(W-CDMA方式の)FOMAに対する付加機能の1つのようなイメージで提供することになるのではないか」とのことだった。
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